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泥だらけのお姫様
第6章 溺れるのは禁断の果実で優しい不実の麻薬
「大丈夫?」

 足を軽く指差して聞いてくれる。

「あっ、大丈夫です。私、今日が初出勤で。至らないかもですが、よろしくお願いします」

「俺もこういうところ初めてで慣れないけど、よろしくです」

 そのあとも色々と話をして、最後は、飲み潰れた上司を担いで帰っていった。

 ちょいちょいナンバーワン嬢が私に嫌がらせをしてきたりもしたが、それもさりげなく庇って守ってくれた。そんな将さんの左手の薬指には指輪がはめられていた。

 当たり前だ。男性なら気づかないところにまで、よく気づき、優しくて理想的な人。それでいて温厚で包容力がありそうな人。昔の、優しかった頃の優祐に似てる。

 どうか、もう来店しませんように。次会うと絶対に落ちてしまう。そう確信して、胸の奥がぎゅぅうっと苦しくなった。

「お疲れ様! 美愛ちゃんはじめてとは思わないよ! 接客慣れしてるね! これからもよろしく!」

 採用担当 兼 店長的な人に褒められるとバックルームで既存の嬢達に陰湿な嫌がらせをされたが気にならなかった。優祐でもう慣れた。これくらいのことは平気。

 それよりも将さんの笑顔が頭から離れなくて、もう来店しませんように……そう思いながらも、ううん、また来てなんて思う私もいたりして、心って本当に複雑だなと思いながら下着が湿っていくのを感じた。帰ったら一人。私はきっと彼のことを考えて淫らに声をあげるのだろう。そう思うと少し頬が熱くなり、店を後にした。
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