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母親失格
第1章 母親失格
 ―――兄貴がお前を連れてきた日から、ずっとお前のことが好きだった。



 あの日。
 臨月の私を抱いた義弟は、私にそう言った。
 夫にはあの時すでに浮気相手の女が居た。
 …今の女とは違うけど。



『一緒に仕返ししようよ』
 義弟はそう言って、私にキスしたんだ。
 あれから何年になるだろう。
 何年、義弟とこんな関係を続けているのだろう。
 夫を責める権利なんて、私にはないだろう。




「そろそろ兄貴に俺たちのことを話して、一緒に全部ブッ壊そうよ」




 時々、義弟は怖いことを言う。
 次兄と同じだ。
 次兄も同じことを言っていた。



『俺は結婚もしないし、お前らみたいに孫の顔見せて親孝行できないから、せめて兄貴のぶんまで最期まで親の気に入る息子でいたい。
 でも、時々考えるんだわ。
 本当のことを話して、いっそ壊してしまいたい、なんて』




 時々、私も思う。
 長女次女だけを連れて、義弟とどこかに消えてしまおうかと。
 喧嘩して夫が私を殴ったあとや、浮気相手の女に会いに行くとき、特にそう思う。
 

 だが私は長男を置いて行けない。
 母親である自分だけは捨てられないからだろう。







『お母さんの不倫相手に会ったことある?』


 長男を出産後、実家帰省中。
 私は次兄に尋ねたことがある。


『あぁ、知ってる。長いよな。まだ続いてるみたい。兄貴の葬式にまで来てたもんな』


 次兄はため息をついてた。


『小さい頃夜中に目が覚めて、見たら母さんが裸で泣いてた。母さんは父さんの子供を4人も生んで、幸せじゃなかっただろうな』



 ―――でなきゃ不倫なんかしないよな。
 



 次兄の言葉が義弟の言葉にだぶる。




「なんで話しちゃダメなの?
 幸せじゃないから、俺を呼び出すんだろ?」




 翌朝、私が作った弁当を持って、義弟は仕事に行った。
 子供部屋で眠っている、長女と次女の頭を撫でてから。





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