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母親失格
第1章 母親失格
「昔、学校から帰ったら、お袋が床の上で鼻血出して気絶してたことがあった。親父がやったんだ」



 背を向けあって眠るベッドで…
 昨日、義弟とセックスしたベッドで。
 夫は言った。
 私は、まるでさっきの自分の話を聞いているみたいだ、と思った。
 子供の前で私を殴る夫を見て、長女と次女が泣いていた。
 ただし夫は、私の顔を殴ったりしないだけ、舅よりはマシだろう。



「俺は長男だし、ずっと自営の中に居るから。職人さんとか、アイツから見たら、我儘に見えるかも知れない。
 でも俺は俺なりに、両親のそういうエグい姿をアイツに見せないように、役割分担してきたつもりだったんだけどな」



 深いため息。
 ベッドが軋んで、夫が私の方を向いた。



「子供のために、別れるなんて話はしないでくれよ。
 片親の子供にはしたくないんだ」



 私もため息をついた。



「ねぇ。一つ聞いていい?」

「なに?」

「夫君にとって幸せってなに?」



 私の質問に、夫はしばらく黙ってた。
 どれくらいの沈黙だっただろう。
 フフッと笑って、夫は答えた。



「実現不可能なことしか浮かばなかった」



 私もつられて笑う。



「というのは?」


「嫁と自分の弟が浮気してたなんて現実を知らなかった、昨日までの暮らし」



 夫は自分で言っておいて、また、大きなため息をついた。



「じゃあ今度は俺から質問」

「なに?」

「お前の理想の家族像は?」

「理想の家族像かぁ…」



 暗闇に沈黙が続く。
 やっぱり私も、言い出しに笑ってしまった。



「あたしンちとか、クレヨンしんちゃんとか、となりの山田くんとか。あんな家族」



 夫がまた、フフッと笑う。
 


「弟なら、それを叶えてやるって言うんだろうな。ごめんな。俺には出来ない」



 夫が布団の中で私の手を握ってきた。
 私もそれを、握り返す。



「どうして?」



 私はそう言って、目を閉じた。
 夫が「だって」と言う。




「お前自身がそれを実現不可能だって、1番理解してるから」




 夫の言葉に。
 私は「当たり」と小さく頷いた。





 
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