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母親失格
第1章 母親失格
「いつパパと別れるの?」



 翌朝。
 夫を送り出したあと、長男が起きてきた。
 寝癖頭で、そんなことを聞いてくる。
 殴られた身体のあちこちが痛い。



「…なんでパパとママが別れるの?」



 朝食の準備をしながら長男に返事する。
 長男は私の足元に体育座りをした。



「ママが幸せじゃないから」



 長男を見る。
 つむじが見えた。
 夫と同じ位置につむじがある。



「パパは怒ったら椅子をママに投げる。
 でも叔父ちゃんはそんなことしないよ」



 
 長男が顔を上げ、私を見つめた。




「安心しなよ。おれは一人っ子に憧れてたし。ジイとバアと暮らしたほうが、勉強勉強って言われなさそうだし。
 パパがママより美人な新しいママ連れてくるかも」




 ガラス玉のような瞳で私を見つめる長男が、言った。




「おれはママの息子じゃなくて、この家の息子だから。
 ママは自由になりなよ」






 私のお腹の中に居たはずなのに。
 私とは全く違う人間なんだと、子育てをしているとつくづく、痛感させられる。





「あんたはママのことが嫌い?」





 そう尋ねた私を、長男が笑った。




「そんなことすら聞かなきゃ分からないなんて、ママ、母親失格だよ」








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