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母親失格
第1章 母親失格
 長兄が自殺した理由は結局、未だに分かっていない。

 長兄の婚約者は数年前、長兄のことを全く知らない別の男性と結婚した。
 わざわざ報告のハガキをくれるような、優しい女性だったのに。 
 長兄は、婚約者には何も告げずに死んでしまった。
 婚約者は一体、どれだけ悲しかっただろう。
 どれだけ自分を…責めただろう。
 



「私さぁ、長兄ちゃんが自殺する前日にさぁ。
 たぶん、死ねって言っちゃったんだよ」


 次兄が仕事で近くまで来たというから、二人でランチしたある昼下り。
 私は次兄に、そう告白した。


「私が長兄の会社の近所にあるケーキ屋で、帰りにケーキ買ってきてって頼んでたのに、忘れて買ってこなかったから。ムカついて、私、ふざけんなって言ったんだけど。もしかしたら、死ね、とも、言っちゃった気がするんだ」


「それ言うなら俺だって」
 次兄が言う。


「ツーリングの誘いを通算14回も断った。
 中学んとき長兄の財布から1万円盗んだし、ヘアワックスいつも借りパクしてた。
 それから…」


 次兄は言いかけて、手で顔を覆った。


「死ぬ前の晩、兄ちゃんにドアをノックされたのに、開けなかった。
 何回かノックされたのに、途中でゲームやめんのが嫌で…無視したんだ、兄ちゃんを、俺は…」



 次兄が声を上げて泣いたのを見たのは、それが初めてだった。
 




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