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母親失格
第1章 母親失格
 時々私は、姉の姿を思い出す。
 結婚前の姉の姿だ。


 一番上の兄が自殺したとき、姉は大学生だった。
 デリヘルでバイトしはじめたと、姉自身に告白された。


「お兄ちゃんといつも比べられて、認められたくて一生懸命真面目にやってきたけど、何もかも嫌になった」


 姉ちゃんはほんの少し茶色く染めた髪をいじりながら、薄化粧の顔をケータイ画面に向けながら言ってた。



「死ぬよりはマシだよね」



 私は姉のように、何か自分を変えることが出来なかった。
 兄が自殺してから毎晩酒に酔って暴れる父から、母を逃がすことくらいしか出来なかった。
 鬱病を患った母の話し相手にしかなれなかった。
 高校を卒業してすぐ夫と出来ちゃった結婚をして、両親にとって『1番出来の悪い、失敗作の末娘』でいることしか。



 ……姉はその後、大学に留学に来ていた香港の男性と結婚した。
 詳しい生活については知らない。
 インスタグラムにたまにアップされる姉は幸せそうだ。
 時々母に『娘と2人だけで日本に帰りたい』と零しているそうだが、そんな親不孝なこと、本当にはしないだろう。




 思うに、私達は結局、親が大事なんだ。
 死んだ兄ちゃんみたいに、親不孝できない。
 だから幸せは完璧な形では手に入らない。
 それなのに幸せに貪欲だから、現実逃避のような、その場限りの、こんな実態のないまやかしの幸せに縋るんだろう。




 義弟に抱かれるとき、私はいつもそう思う。






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