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僕の彼女が堕ちるとき
第3章 サイは投げられた
 大塚の報告の後は僕や朱里も含めて、完全に消化試合のような感じになってしまった。
 僕らのゼミ生の中では、一人修士課程に進むやつがいて、そいつの卒論が比較的高水準だったが、それさえも大塚の報告には、かすんで見える有様だった。

 報告会の最後に総評ということで先生から感想があったが、そこでも話に出たのは大塚のことだった。
 結果的に、僕にとっては、まるで面白くない報告会になってしまった。

 
 だが、僕にとって、その後はさらに不快だった。
 昼食の席で、大塚がゼミの女の子たちに取り巻かれていたからだ。
 もっとも取り巻きの女の子のなかに朱里の姿はなくて、僕は救われた思いだった。
 大塚は取り巻いた子たちに、父親の会社に経営陣として参画する話や、大学にはバイリンガルの枠で入っていることなどを話していた。
 そういう話を顔見知りのゼミの女の子たちが目を輝かせて聞いているのを、面白く見ていられるわけがない。
 

 だが、そんな不快さは些細なことで、昼食ではそんなことを上回る大きな不安と苛立ちが僕を襲った。
 僕が食べ終えた昼食の食器を片付けているときに、大塚が僕に近寄ってきたからだ。
「報告会、お疲れさん。……それじゃ、ここからは例の勝負だな。昨日、お互いのBETは確認したし、そろそろ運命のルーレットをまわすとしようか。」
 薄ら笑いを浮かべた大塚が僕に囁く。

 あの卒論報告を聞いた後、僕はこの大塚という男に底知れない恐怖を感じていた。
 こいつのチャラい外見や飄々とした態度は、ただのカモフラージュなのではないか。
 酒の勢いで、こんな勝負を持ちかけたことを、僕は激しく後悔していた。

 だが、昨日、あれだけ言いたい放題言っておいて、いまさら頭を下げてなかったことにしてくれ、というのは絶対に嫌だった。
 もう引くわけにはいかない。何があっても。
 僕は足早に部屋に戻ると、内心の恐怖を隠しながら帰りの荷物をまとめ始めた。

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