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僕の彼女が堕ちるとき
第4章 苦すぎたコーヒー
「で、君は、○◆建設だっけ? 大手のゼネコンに内定してるらしいじゃん。えらくいいとこに決まったもんだ。」
 大塚がいきなり僕に話題を振ってきた。

「あんたには関係ないでしょう。僕がどこに内定してようが。」
「ああ、確かに、俺には関係ないな。だけど、西野さんには関係あるんじゃないか?」
「……何が言いたいんですか?」

「君は、就職活動の結果として、見事、志望の大手ゼネコンの内定を勝ち取った。それはいいさ。だけど、西野さんは、志望の教員の採用試験には受からなかった。いわば、君は勝者で、西野さんは敗者だ。そのことの意味を、君は考えてみたことがあるか?」
「はあ? そもそもこんなことに、勝者とか敗者とか、そんな言い方がおかしいでしょう!」

「ああ、俺もおかしいと思うよ。だが、西野自身さんがそう考えているとしたらどうかな? そして、そのことで、君に少なからずコンプレックスを感じているとしたら?」
「そんなこと……!」
 ありえない、と言いかけて、僕は言葉が継げなくなった。

 朱里は大塚にそんなことまで話したのだろうか?
 それほど苦しんでいるなら、朱里は、何故、僕に話してくれないのだろうか?


「君は、西野さんが商社の事務に内定したときに喜んでたらしいね。何とか、内定がとれてよかった。これで、いずれ自分の仕事が落ち着いたら、結婚のお願いにいけるよ、って。」
「それがどうかしたんですか!」 
 大塚に言われて、僕は思わず噛みついていた。

「いや、親友の松井さんだけが教員試験に合格して、素直に喜べない時に君にそういう言い方をされて、夢破れた西野さんは、コンプレックスを感じずにいられるだろうか、と思ってね。」
 大塚の声は冷静だったが、それは明らかに僕の肺腑を抉るような言葉だった。
 黙ったままの僕に、大塚がさらに言葉をかぶせてくる。

「ま、後は、自分で考えるんだな。だが、こっちとしては願ってもない情報だよ。遠慮なく西野さんの心の隙間につけ込ませてもらうとするさ。彼氏との隙間が大きくなって隙間風が寒く感じれば、誰かの温もりに身を委ねよう、って気にもなるもんだしね。……それじゃ、また後で。」

 大塚が電話を切り、頭が真っ白になった僕は、ツーツーという電話の切れた音を、しばらくの間、聞き続けていた。

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