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僕の彼女が堕ちるとき
第5章 揺れる想い
 その後も、僕は何をするでもなく、朱里のことを思いながら、ベッドの上で膝を抱えて座り込んでいた。
 そして、胸ポケットのスマホが震える。

「お約束の定期連絡だ。これから店を出て解散するとこ。西野さんは、俺がタクシーで、彼女のアパートに送っていくことになったよ。一応、帰る方向が同じなんでね。ま、これはゼミの女の子たちへの、表向きの話だけどな。」
「表向き、ってのは、何なんですか?」
「何って、ようやく西野さんと二人きりに持ち込んだのに、俺がこのまま返すと思うか?」

「……まさか、無理やり、あんたの部屋に連れ込む気じゃないでしょうね?」
「……無理やり? 何でいまさらそんなことをしなきゃなんないんだ? もう西野さんを俺の部屋に呼ぶためのネタも、ばっちり用意できてるっていうのに。」
「ネタって、どういうことですか!」
 ブラフとも思えない大塚の言葉に僕は思わず声を荒げた。


「うーん、これは、報告として教えなきゃなんない話じゃないんだけど……まあ、いいか。あのさ、西野さんが内定した会社だけどさ、彼女、面接のときに、そうとう酷い圧迫をうけたらしいよ。何でも、事務志望のくせに簿記もできないのか、何を考えてるんだ、とか言われたみたい。で、内定式の時も、簿記くらい入社までに勉強してこい、ってしつこく言われたって。」

 初めて聞く話だった。
 そして、僕はそのことを朱里ではなく、大塚から教えてもらっている、ということが、このうえなく情けなかった。

「で、俺の持ってる簿記の教本があるからあげるよ、帰りがけに渡してあげる、って言ったら、西野さん、喜んでくれてね。とりあえず、俺のマンションの入口までは来てくれると思うよ。」
「あんた、簿記とかできるんですか? 正直、信じられませんけど。」
「おいおい、俺の卒論報告、聞いてなかったのかよ。決算書のB/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)が読めなかったら、経営状況なんてわからないだろ。」
 それくらいは僕でもわかる。確かに、大塚のいうとおりだった。

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