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僕の彼女が堕ちるとき
第5章 揺れる想い
 だが、僕の狼狽をよそに、またポケットのスマホが振動した。
 今度は大塚からの電話だ。
 僕は震える手を押さえて、通話のボタンをタップする。

「よう、今、すぐ近くのカフェにいるよ。そろそろ、俺の部屋の中にいるかい?」
「……いますよ。」
「わかってるとは思うけど、君の痕跡が分かるようなことはNGだ。靴はレジ袋か何かに入れて、持ち歩いてるか? 部屋のエアコンは入れてないだろうな? 照明もこの電話が終わったら消してくれよ。」
「……そういう段取りだったでしょ。やってますよ……不本意だけど。」

「それなら結構。確かに、そっちにとっては不本意だろうな。そのうえ、西野さんから、スマホの電源を切られた今じゃ、不本意どころか、不安で不安でしようがないと思うよ。」
「……おい、何で、あんたがそのことを知ってんだよ!」

「そんなの、俺が西野さんに勧めたからに決まってるだろ。彼氏が電話をかけてきて店の雑音で変な誤解をするとまずいから、スマホの電源落としちゃいなよ、って。昨日から、持ちっぱなしなんだから、電池切れそうって言っとけば、不審に思われないよ。俺がそう言ったら、西野さん、すぐに電源切ってくれたよ。」
「そんな……」
 まさか、と思った。
 だけど、さっきの朱里のメールはまさにそういう内容だった。
 また、僕の心に激しい焦りが立ち上ってくる。
 まるで僕の心臓が誰かに鷲掴みにされて、ぎりぎりと揉みこまれるようだった。

「これで、もう君はこの勝負を降りられなくなった。俺としては、これでようやく君の逃げ道を封じたわけだ。追い詰められてるからって、彼女に全部ばらして勝負をチャラにして逃げる、なんてことはもうできないぜ。」
 大塚の言葉に、僕は完全に逃げ道が塞がれたことを悟った。

「……そんなこと、どうでもいいから、さっさと報告をしろよ。」
 それでも僕は虚勢を張って、大塚に言った。
 今は、いや、今みたいな状況だからこそ、僕は、大塚の前で、弱いところを見せてはいけないのだ、と自分に言い聞かせながら。

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