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僕の彼女が堕ちるとき
第6章 見えない心、違えた道
僕はクロゼットを出ると、寒い部屋の隅でうずくまって、自分がどうするべきかを考えていた。だが、いくら考えても、出てくるのは悔恨だけだった。
……僕は朱里のことを何もわかっていなかった。
彼女が教員試験に失敗してどれほど苦しんでいたのか。
内定先の会社に内定を取り付けるまでに、どれほど嫌な思いをしたのか。
僕はそのことの本当の意味を知らずにいた。
そして、一方的に結婚だなんだと、浮かれていただけだった。
しかも、僕は自らの態度で、彼女の口を封じてしまっていたのだ。
ようやく僕は、そのことに気付いた。
こんなバカな賭けの、それもこんなどうしようもない状態におかれてから。
しかし、そこまで考えて、僕は、おや? と思った。
今の僕は本当に「どうしようもない状態」なのだろうか?
そもそも朱里がこの部屋に来ることを拒んで、例の簿記の教材は1階の入口まで持ってきてくれ、と大塚に言えば、それで勝負は終わりだ。
大塚に煽られすぎて僕は弱気になっているけれど、普通はそうするはずじゃないのか?
朱里が、というより普通の女の子が、一日かそこら友達と一緒に会っただけの男の部屋に、一人でついていくなど、あまりに不用心すぎやしないか?