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僕の彼女が堕ちるとき
第6章 見えない心、違えた道
 僕はまんじりともせず、暗くて寒いクロゼットのなかでひたすら座り続ける。
 防虫剤と服地の匂いが立ち込めるなか、僕はこの勝負の結末を待ち続けていた。

 やがて、部屋の電気が灯り、玄関に人が入ってくる音がした。
「じゃあ、どうぞ。あがってってよ。」
「……それじゃあ、お邪魔しますね。」
 大塚の声に聞き慣れた朱里の声が重なる。

 ……何やってんだよ!と、思わず声が出そうになるのを、僕は堪えた。
 いや、大方、大塚が簿記の教材をエサに釣り出したのだろう、と僕は思いなおした。
 
 本当の勝負はここからだ。
 大塚との勝負には負けたけど、朱里が簿記の教材だけ受け取って帰れば、それで事は済む。
 もちろん、後で朱里にはこの勝負のことを全て話して、釘を刺しておかなくてはいけないけれど、僕が下らない賭けを始めなければ、そもそもこんなことにはなっていない。
 お互いさま、ということで謝れば、朱里もわかってくれるだろう。
 
 それだけだ。それだけで済む話だ、と僕は自分に言い聞かせた。

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