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僕の彼女が堕ちるとき
第6章 見えない心、違えた道
「そんなんじゃありません!颯太はダメなわたしのためにいろいろ手を尽くしてくれて、なんとか就職できるようになったんですよ?親だって喜んでくれてるし。もう、なんにも、問題なんてないんですから!」
 朱里は断言するように言ったが、大塚はまるで動じることもなく言葉を続ける。
「君自身が心からそう思ってるんなら、それでいいさ。だけど、君のスマホには今言ったこととは違う意思が入ってるんじゃないの? それもわりと目立つところに。」

「……待ち受け画面のことですか? 教育実習の時に生徒と撮った写真なんて、今はもう、ただの思い出ですよ。彩と違って、わたしは採用試験、受からなかったんだし。」
「思い出ってのは、心の中にしか居場所を見いだせないもののことを言うんだよ。帰りの電車のなかで、松井さんと実習先の写真を見せあってるときの君は、その写真を思い出にできているようには見えなかったけどね。」

「……もしかして、見てたんですか? わたしと彩が教育実習の写真を見せあってるところ。寝てると思ってたのに。」
「悪いけど、寝たふりして見てたよ。松井さんがすごく楽しそうに見せてるのに、同じように写真を見せている君の顔は冴えなかった。あれは結果を受け入れた人が見せる目じゃないね。自分が歩むはずだった道を友達が歩んでることをうらやむ目だ。あれを見れば、君がまだ自分の結果を受け入れていない、ってことぐらい、俺にだってわかる。」


「……だったら!……だったら、どうだって言うんですか!」
 朱里は立ち上がって大塚を睨みつけた。
「わたしみたいに何やってもダメな人間は、もう今の内定先でもなんでもすがりついて、結婚して颯太に幸せにしてもらうしかないんです! それのどこがいけないんですか!」
 朱里は涙を浮かべて、大塚に詰め寄った。

 朱里がそこまで言ってくれたことに、僕は感激していた。
 今すぐにでもこのクロゼットを飛び出して、朱里を抱きしめたいと思った。
 ……大塚の、つぎの言葉を聞くまでは。

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