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僕の彼女が堕ちるとき
第6章 見えない心、違えた道
「えぐっ……えぐっ……」
 大塚は背中を震わせて泣き続ける朱里を抱きしめて、ゆっくりと背中を撫で続けていた。

「本当は……ずっと……颯太に言いたかったんです……教師になるの、あきらめたくないって……だけど、内定先のこととか……結婚とか……そういうこと言われて……わたし……何も言えなくなって……ずっと……えぐっ……。」
 朱里は大塚の胸の中に顔をうずめたまま、留めていた想いを吐き出すように訴え続ける。

「君のやりたいことをやればいいじゃないか。バイトでも、育休の先生の代理教師でも、なんでもやって、何度でも教員試験に挑めばいいだろ。なんで君は、自分で自分の人生を掴もうとしないんだ?」
「……わたしの……人生……?」
 大塚の言葉に、朱里が顔をあげた。

「そうだよ。君の人生だ。誰かが、君の代わりに生きてくれるのか? 彼氏か? 親か?そうじゃないだろう? 今までの君自身を壊せ。今、君自身がやりたいことをやらなくてどうするんだ?」
「……大塚さんは……わたしの背中……押してくれるんですか?」

「俺でよければ、いくらでも押してやるよ。今年ダメだったら来年またやればいい。それで2年や3年くらい、足踏みしたっていいじゃないか。君は、その教育実習の写真の子たちに約束したんだろ? ちゃんと先生になって、またここに来ます、って。」
 
大塚の言葉に、朱里は再び大塚に抱きついて、声をあげて泣き出した。
「……ここで、泣いていけばいいよ。好きなだけ……。」
 大塚はそう言って、また、朱里を抱きしめた。

 
 どのくらいの間、目の前の二人がそうしていたのか、僕はよく思い出せない。
 僕はジリジリと嫉妬で心を焼かれながら、じっと抱き合う二人を見続けていた。
 やがて、目を潤ませた朱里が顔をあげ、抱き合ったまま、大塚と目線を合わせた。
 そして、朱里が目を閉じ、朱里の唇にかぶさるように、大塚の唇が重ねられた。

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