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僕の彼女が堕ちるとき
第7章 エンドレス・ボレロ
僕は目の前の二人のキスを絶望的な気分で眺めていた。
そして、圧倒的な悔恨が、僕を苛むように押し寄せてきた。
なぜ、僕は朱里が救いを求めてきたときに、背中を押してやれなかったのだろう?
教員試験に全敗して、どうしたらいい? と朱里が僕に聞いてきたとき、何故、僕は、今、大塚が言ったことを、そのまま彼女に言ってやることができなかったのだろう?
だけど、その答えは、今さら自問するまでもなく、僕自身がもっともよく知っていた。
教育実習で中学生たちと撮った写真を僕に見せながら、朱里は僕に言ったのだ。
「わたし、みんなと約束したんだ。絶対、先生になって、ここに戻ってくるって。」
熱く教師への思いを語る朱里を、僕は確かに見ていたはずなのに。
いや、見ていたからこそ、僕は朱里の背中を押すことができなかったのだ。
だって、朱里は教師になれるなら、多分、沖縄でも北海道でも行ってしまうだろう。
もし、来年、都内や近県で合格できればいいけれど、そうなるとは限らない。
それに、僕は自分の仕事が落ち着けば、すぐにでも朱里と一緒になりたかった。
結婚ということを考えたときに、僕は内心、朱里の夢を素直に応援できずにいたのだ。
だから、僕は朱里が教員試験に失敗したとき、そのことには同情しながらも、教師とは別の道を勧めてしまった。
そのことが彼女をどれほど苦しめることになるのか、深く考えもせずに。
……そして、僕は、自分が完全にこの勝負に敗れたことを悟った。