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スカーレット オーク
第3章 3 岐路
 オペラ会場からずっと男の香りに抱かれ、自分の欲求に気づいた緋紗は突っ立ってしまった。
男が、
「大丈夫?一人で帰れる?」
 と、緋紗に優しく訊ねる。――迷子みたいな扱いをされた。
 欲望がなんだか憤りに変わって理性を吹き飛ばし緋紗を正直に感情的にしてしまう。

「大丈夫です。もちろん一人で平気です!」
 静かに見つめる男に続けて緋紗は言葉を発する。
「セックスしませんか?」

 数秒の沈黙後、呆気にとられた表情ののち男は、ふうと息を吐き出してから言う。
「後悔しないの?今晩だけになるかもしれないよ?」
「しません」
 今晩だけでよかった。
次のことなど何も考えておらず、今の欲望を燃やし尽くしたいだけだった。

レンズ越しに見える男の瞳が優しげな眼差しから一瞬鋭そうな獣のような光を帯びる。――狼みたい。
 二人を取り巻く空気が変わるのを感じて緋紗は緊張する。

「ついておいで」
 緋紗は自分から望んでおいて今更ながら膝が震えだした。
しかしついていく足は止まらず交差点を無視しホテルへ向かう。
理性の声はもう緋紗に届かない。

 男がコンビニの前に立ち止まって、
「少し買い物しよう」
 と、言った。
男についてコンビニに入りさっと小さなショーツとストッキングを手に取り、レジにそれだけ持って行こうとすると男がそれらをすっと取り上げた。
「一緒に払うよ」
「いえ、あの。自分で」
「いいから。さっき頑張ったからもう任せてくれていいよ」
 緋紗は真っ赤になってうつむき横目で男がミネラルウォーターとコンドームを持っているのが見えた。――あ。なんか大人。
 感心と安心で膝の震えが止まっていた。
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