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スカーレット オーク
第49章 49 打ち上げ
「よし。じゃあ乾杯するか。お疲れさん。乾杯」
「乾杯」
「乾杯」

 グラスを鳴らしてビールを飲んだ。
 直樹は松尾と鈴木に挟まれるようにして座っている。
もう打ち解けているらしく話が弾んでいるようだ。――大人だな。もう仲良く話してる。
 そこへ美紀子も参加してより賑やかになっていった。
緋紗は谷口の隣に座った。

 緋紗と谷口は倉田百合子と同じく陶芸センターの同期で、谷口が先に松尾に師事したので兄弟子にもあたる。
二人とも少し人見知りなところや好みが似ていて緋紗にとっては男の知り合いの中では親友のような存在だった。
谷口も自分と緋紗が似た気質で遠慮なく本音を話せる知己だと思っている。

「宮下さん、大友さんとは結婚するん?」

 谷口が小声で聞いてきた。

「ううん。そんなんじゃないよ。まだ知り合って間もないし。こっちは好きじゃけど」
「ふーん。なかなかお似合いじゃけどな」
「そう?谷口君はどうなん。生活」

 谷口は三年前スピード結婚をし、もう二児の父親だ。

「毎日大変じゃけどなんとかって感じ」

 まだ若くやっと松尾から独立しこれからという時の結婚だったので緋紗には衝撃だった。
谷口の仕事は主に作家や窯元から焼く前の商品の注文を受け作ることだ。
湯呑などの小さなものは単価が低いが壷など大物になってくると単価も高くなってくる、備前にだけある『賃引き』と言われる職人的な仕事だった。

「自分の作品作る暇ある?」
「今はないなあ。なんか子供見とるとそういう前にあった欲求みたいなのが減ってくるんよ」
「そんなもんかね」

 陶芸センターに入った当時は二人とも二十歳前で色々やりたいことや野望があったように思う。

「宮下さんも結婚して子供できたら変わるよ。しかも変わるんが嫌じゃないんよね」
「そうなん」
「大友さんって、なんか大人っぽおってええやん。ほかに宮下さんでええと思う人おらまあ」
「ちょっとー。失礼なんなあ。でも大友さん私と同じネトゲにおるんよ」
「すごいやん。せっかくじゃし捕まえとかれ」

 二人で笑った。
谷口との気楽なおしゃべりは楽しかった。
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