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スカーレット オーク
第17章 17 ペンション『セレナーデ』
 和夫がオーナー兼コック長だ。
カレーのいい匂いがする。
オールステンレスで機能的なこの厨房はログハウスと相反するような気がするが働く側にとっては気が引き締まるような場所にみえる。

「とりあえず食堂のテーブルに座んなよ。今、忙しくないから」

 楕円の木製のテーブルに生成りのリネンのテーブルクロスがかかっていて、手作りの小さな粉引きの植木鉢に植えられた小さなクリスマスローズが飾られている。
 緋紗が陶器とクリスマスローズの柔らかい白さに見入っていると妻の小夜子がコーヒーを運んできた。

「一応私からも仕事の説明をしておくから、そのあと直君に詳しく教えてもらってね」
「はい」

 緋紗は背筋を伸ばした。
小夜子は笑いながら、「ああ、そんなに固くならないで」と言い、咳払いをして説明を続けた。

「今はまだお客様はいないの。夕方四時から五時くらいに五組みえるわ。女の子三人組とカップル三組、それと家族四人様ね。みんな一泊の予定よ。明日は六組ね」

 このペンションは部屋が十室あり二部屋がファミリー向けであとはカップル向けだ。
観光地から少し離れているので満室になってしまうことがないが飛び入りも稀にあり半分くらいの部屋は埋まるのだった。

「今日はディナーを手伝ってもらうくらいかしら。明日は朝から色々お願いしちゃうけれど」

 綺麗に巻いた髪を束ねてお茶を飲んでいる小夜子は堂々とした大人の女性という感じだ。
緋紗は少しみとれて、「頑張ります」と赤面しながら返事した。

「さて、じゃ直君あとよろしくね。そうそう今晩はほんとごめんね。後で部屋に持っていくから」
「しょうがないですね」

 そっけなく言う直樹をよそに「じゃあとでね、ひさちゃん」と、手を振って厨房へ向かった。
緋紗は二人きりの時の直樹しか知らないので吉田夫婦に対する素っ気なさが不思議に見える。
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