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Backside storys
第1章 小鳥遊 真紀
木曜日。

仕事を終えて、帰ろうと事務所を出たのが7時過ぎ。
事務所は出たけど、真っ直ぐ帰るのも、寄り道する気もせず、誰も来ないはずの事務所外の商談スペースに座る。

携帯をチェックしても、既読スルー。

あー、バレてもたか…ぐらいなんかな…
Lineなんかブロックしてしてまえば終わりやし、電話掛けたって、絶対出なあかんわけでもない。何処に住んでるんかも、勤め先も、本名すら判らん…彼に対して何か能動的に働きかけられるほど、彼の個人情報がなさすぎる…

それに、働きかけるってナニ…あの幸せそうな家族を、私が壊すの…?不倫は、それが公になれば、私も社会的なリスクを負うことになる。私がそれと知らんかったと言うても、そんな証明はできん…

アホみたい…
私の1年、何やったんやろ…
悔しい、というより、情けない…

こんな、惨めな気持ちになるなんて、思いもせんかった…

ヒトの出入りする音がするうちは我慢してたけど、周りも暗くなって、ヒトの出入りが止むと、ポロリ、と涙が出た。

ひと粒流れ落ちた涙は、堰を切ったように次から次から出てきて。
会社におることも忘れて、嗚咽をこぼしてしまう。

「…たか…なし…さん…」

声をかけられて、俯いたままびくっと飛び上がった。

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