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Backside storys
第1章 小鳥遊 真紀
「どうか…したんですか…?」

声で、井上くんやとわかった…まだおったんや….顔を上げられるわけもなく、手で顔を隠したまま、かぶりを振った。

「何が…あったんですか?」

同じ態勢のまま、ぶんぶんと大きく頭を振る。

「そんなんじゃ、わかんないですよ。何があったのか、教えて下さい。」

言えるわけない!早よ帰って…!
こんな姿、会社の誰にも見られたくない…

「……なに、も…」

うずくまったままつぶやく。
足音が遠ざかって、離れてくれたんかな、と思ったら、自販機に小銭を入れる音と、自販機の動作音…
コン、とテーブルに紙コップを置く音。
また戻ってきた!

もぅ…どっか行ってよ!

「ココア、置いときますから。温かいもの飲むと、落ち着きますよ。できれば冷めないうちにどうぞ。」

という言葉とともに、向かい側の椅子が動き、人が座る音がした…え?帰ってくれへんの…?

しばらくズルズルとコーヒーを啜る音がしてたけど、そのうちそれもやむ。

「… ココア、冷めちゃいますよ…」

「俺に関係ないことなのはわかってます。でも、気になるんです。俺でよければ、話聞きますよ?」

話…こんな話、誰にできる…と思いながら、何かリアクションせんと、井上くんは帰ってくれへんのやろうな、と思ったし、誰にも見られたくない、憐まれたくない、と思いながら、家にも帰らずこんなとこで泣いてしまった私も悪い…それに、傷ついたとき、誰かに大丈夫ですかと手を差し伸べて貰えるのは、ありがたい事や…ヒソヒソと遠巻きに指差して笑われるより、ずっと救われる…
手で顔を覆ったまま、ふー、ふー、と息をして、何とか落ち着こうとする。ポケットからハンカチを出し、涙を抑えた。

俯いたまま、ココアの紙コップを手に取り、一口飲んだ。

「…おいし。」

甘すぎるから普段は買うことのないココアが、何でかすごく美味しく感じた…
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