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Backside storys
第3章 龍沢 玲司
俺は、高校までは、兵庫県の北部の田舎で育った。
父親の顔は知らない。
母親の顔も、朧げだ。
俺は爺さんに育てられた。

爺さんは、現役時代は小学校の先生をしていて、定年間際は校長とかもしたらしく、幾分後退した白い髪で歳より老けては見えたけど、足腰も丈夫で、元気な人だった。

奥さんを早くに亡くして、男手ひとつで育てた娘…それが俺の母親な訳だが、狭い田舎で、子どもが悪さをすればそれがどこの家の子なのか、町中に知れ渡る、そんな環境の中、教師の娘が、と言わせないために、相当締め上げた、というか厳しく育てたのだそうだ。

爺さんは、鳳仙花の種、と言った。種が詰まってぱんぱんに膨らんだ実は、微かな刺激で弾け飛ぶ。

要は、締め付けすぎた、ということらしい。
娘の為…お前の為だ、と繰り返しながら、結局は外聞を恐れた自分の為だったんだな…と言った。

高校を卒業した娘は、飛び出すように田舎を離れ、連絡ひとつよこさなくなった。
心配した反面、大きな事件を起こして新聞沙汰なんかにならない限りは、少しは心穏やかに過ごせる、と思ったそうだ。

厄介払い、と言うと語弊があるが…仕事をしながら娘が品行方正に生きていくかを身近で監視するのは、荷が重かったんだよ。今思えば、たったひとりの自分の娘と向き合うことも出来なかった、父親としては下の下だな…と爺さんは自嘲気味に笑った。
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