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Backside storys
第3章 龍沢 玲司
母親に対して、思うことは何もない。
そんな重荷になるなら何故生んだ、という気もしなくはなかったが、爺さんとの暮らしはそう悪いモノでもなかったから。
というか、他を知らないから比較することが出来ないだけかもしれないが、殴られたり理不尽に怒鳴り散らされたことは一度もない。
叱られたのは俺が何かやからした時だけだ。

飯もちゃんと作ってくれたし、服も靴も、必要品は全て買ってくれた。
ゲームやマンガなんかの娯楽用品はあんまりなかったけど…どうしてもそれが欲しいモノなら目標を立てて自分で買え、と家の手伝いに応じたバイト代が貰え、相応に小遣い銭もくれて、それが貯まった頃には、そのゲームはそうまでして欲しかったかな、と疑問に思う程度に熱が薄れていて。結局、自転車を買う、と言ったらそれは必要品だ、と金を出してくれたりした。
結局、俺は自分の貯金も併せて自転車のグレードを上げた。

爺さんの楽しみは晩酌で。
晩飯の時につまみになる塩辛いおかずを摘んで日本酒をちょびちょび呑むのが何より楽しそうだった。

小学校の頃、爺さんに連れられて灘の酒蔵見学に行った。
デカい酒樽を横に倒したヤツの中に入ったり、俺はもちろん試飲はできなかったが、爺さんは楽しそうだったし、酒造りの工程は神秘的で、昔の人はなんでこんなこと考え付いたんだろうか、と不思議で仕方なかった。
けど、酒って、色んな材料で、世界中で作られてて。昔からあって、未だに廃れてないってことはコレから先も需要はあるんだろうし。
何より、呑んで気持ちよくなってる爺さんは凄く幸せそうで。
きっと、ヒトを幸せにする何かなんだろう、と子供心に思った。
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