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独占欲に捕らわれて*Regret
第2章 紅玲の憂鬱
「でも……」
千聖が食い下がろうとすると玄関が開き、黒川が戻ってきた。
「住所までは知らないが、君の父さんはこのボロアパートのどこかに住んでいる。向こうに商店街があっただろう? その向こう側にあったはずだ」
黒川は紅玲に写真を手渡しながら説明する。
「ありがとうございます。行こう、チサちゃん」
「でも……」
千聖はニタニタ笑う黒川を睨みつける。

「何かね? お嬢さん」
「いえ、なんでもありませんよ。ほら、行くよ」
紅玲は半ば強引に千聖の手を引き、その場から離れる。

「あんな言われっぱなしでいいの!? 私はすごく悔しい」
「オレのために怒ってくれてありがとう。そうやってチサちゃんが怒ってくれたから、冷静でいられたよ。まぁそれに、オレもあそこまで言われて大人しくしていられるほど大人じゃないから」
紅玲の不自然な笑顔に、千聖は苦笑する。

「そうね、あなたってそういう人だものね。でも、ほどほどにね?」
「それはどうかなぁ? にしても、父さんもだいぶ苦労してそうだねぇ……。ここ、小さい頃オバケアパートなんて呼ばれてたところでさ。子供達はここの住人達をこっそり盗み見てはどんなオバケだって勝手に設定を考えてたりしてたんだよ」
「子供ゆえの残酷な遊びね……。紅玲もしてたの?」
「まさか。バカらしいって思ってたし、そもそもオレ、トーマ以外に友達いなかったからね。そんなことより、まだ潰れてなかったことに驚いたよ」
紅玲は千聖に写真を手渡す。写真には今にも倒壊しそうなボロアパートが写っている。屋根も外壁もトタンに覆われ、階段も途端もサビだらけだ。オバケアパートというのもうなずける。

「確かに、よく潰れないわね……」
「場所が分かったのはいいけど、問題はどの部屋にいるかだよねぇ……。記憶があってたら、ここって表札とかないし、大家さんは冗談抜きでオバケみたいな人だったし……」
紅玲はガックリと肩を落とす。
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