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独占欲に捕らわれて*Regret
第5章 平穏へ
女性用個室に入ると、トイレットペーパーに目をやる。トイレットペーパーの上はちょっとした台になっている。千聖は念の為、トイレットペーパーで指紋を拭いてからSDカードを台に置いた。
紅玲は前科がなければ指紋がついていても見つかりっこないと言っていた。もちろん千聖は警察にお世話になったことがないのでその点問題はなかったが、性格上、そうしないと落ち着かない。
10秒数えてからトイレットペーパーをトイレに流すと、個室から出て用を足したかのように手を洗ってから外に出た。

紅玲は炭酸水を飲みながら、スマホをいじって待っていた。
「とりあえずひとつ」
「お疲れ」
紅玲は労りの言葉をかけながら千聖にお茶を手渡すと、物欲しそうな顔をしながら自分の唇に触れる。千聖は、それが何を意味するのかよく分かっている。

「確か、駅前に大きな喫煙所があったわよね? そこに行きましょうか」
「ありがと、チサちゃん。確か近くに雑貨屋さんがあったから、オレが一服してる間、そこで待っててくれる?」
(そういうことね)
ただ単に紅玲が煙草を吸いたがっている訳ではないと察し、頷いた。

駅前につくと、大きな喫煙所が目につく。半透明のアクリル板でできた囲いからは、紫煙があがっている。
「じゃあ、一服してくるね」
「えぇ、行ってらっしゃい」
紅玲は喫煙所に、千聖は近くにある雑貨屋へ行く。雑貨屋にはパステルカラーの文具や小物が並べられている。正直、千聖の好みではないが、今はそんなこと関係ない。

(ベタにここら辺かしら?)
千聖はハンカチを手に取って柄を見るふりをしながら、SDカードを挟んで指紋を拭き取るように軽く擦りながら戻した。
ポシェットを身につけたクマのマスコットを見つけると、そちらも興味があるふりをしながらポシェットにSDカードを忍び込ませ、戻して雑貨屋を後にした。

どうやら紅玲もちょうど一服終えたらしく、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「何かいいものあった?」
「えぇ、ハンカチと、ポシェットを下げたクマのマスコットが」
「そっかぁ。喫煙所の中は植え込みがあってさ、喫煙所にしては居心地よかったよ」
「それはよかったわね」
ふたりは報告をし合うと、腕を組んで歩き出した。
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