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遠き記憶を染める色【完結】
第15章 決意の二人
決意の二人



「あの人のことは忘れられない。もしかすると一生…」


「!!!」


この言葉は流子が一番恐れていた返答だった。
正に最悪のリターンが返ってきてしまった。
コトバとしては…。


***


流子は耳を塞ぎたい気持ちだった。
彼は年上の長島弓子とは別れたときっぱり認めた上で、”一生忘れられない女性”だと明言したのだ。


すなわち、まだ未練があると…、愛してる気持ちが残っていると…。
しかもそれを消し去ることができないと…。
流子には、必然的にそういう解釈となった。


しかし…。


「あの人はわずかな間でも、オレの海だったんだ。海として愛したその愛がオレに返ってきた…。それは自分が海に抱かれていたというこになる。あの人と愛し合うことは、海に還ることと等しかった。それを失えば、”あの時”浦潮に”割礼”を受けたオレには、マトモにヒトを愛せない。…だから、オレには海として愛せる人が必要なんだ。そうでないと生きて行けない…」


もはや流子には、この抽象的なサダトの説明がすべて理解できていた。
つまり、さっきの言葉で受けた失意を根底からひっくり返す、一筋の明かりが灯ったのだ。

***


彼女はそれを悟り、左横のサダトに顔を向けて、感情モロだしの叫びに近い声で、心そのままの願いをぶつけた。


「お兄ちゃん、それなら私じゃダメなの!私があなたの海になって、あなたと愛し合うわ!…私じゃ無理なの…?」


だが、最後のフレーズは一転、空気が抜けたような弱々しい響きとなった。
それは彼女自身、その”対象”として、長島弓子に取って代われる確たる自信がなかったから…。


ここでも流子は、自分の気持ちに素直であり続けた。


”サダト兄ちゃんは私を今現在も愛してくれると思う。でも、4年前にここで彼は言った。あの時の私には、守ってやりたい愛の気持ちだと…。それは、私には海になれないってことだよ。あれから4年たって、私はカラダだって成長したけど…。お兄ちゃんにとって、あの女優とは比べものにならないでしょうね。所詮、こんなコドモ…”


彼女は再び膝を抱えて俯いてしまった…。


***


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