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遠き記憶を染める色【完結】
第21章 彼の部屋で
「アハハハ…、でも、駅まで迎えに来てくれたんで助かった」


ここで彼の瞳が”戻った”…。
彼女は咄嗟に、水に”引きこまれている”彼の瞳を拒んだのだ。


サダトが”それ”をどこまで感受できたのか…。
その回答は、この後の二人の運命が暗示していた…。


***


「夢みたいだ…。芸能人の部屋に入るなんて。でも、それじゃなくても、サダト兄ちゃんの部屋なら、このドキドキ感は変わらなかったから」


サダトは思わずこぼれ笑いだった。


「…この前も言ったけど、ここにはファンの子も何人か来てさ。ホントはダメなんで、メンバーの上の人と事務所には結構きつく叱られてね。…やっぱさ、思ったよ。芸能界、オレ無理だわって…」


「でもねー、私の友達間じゃあ、お兄ちゃん、”レッツロールの良心”ってことだから。おおらかな南房総の土地柄はあるだろうけど、この前のバスタ、他の芸能人じゃありえないよ、ああいうの…。先生含めてさ…」


流子のコトバが嘘でもこじつけでもないのは、サダトにもちゃんと伝わった。
その一方、彼女が条件反射的に自分を背伸びさせてしまう気負いが、透けて見えた。
それは、今の彼にとって辛いものがあった…。


***


「サダト兄ちゃん、あけっぴろげで色気もそっけもないだろうけど、私、サダト兄ちゃんにここで抱かれるから。…普通に、水なしで…。それでダメでも私の気持ちは変わらないし」


流子はいきなり、きっぱりと宣言した。
あえて…。


サダトもそんな彼女を正面からじっと見据え、それを受けた。


「流子ちゃん…、その前に渡すものがある。受け取ってくれるか?」


「うん…!」


ここでサダトはリビングチェストの引出しを開け、ビニールの子袋に入ったキーを手にすると、それを流子に差し出した。


「これって…」


「これ、○○銀行に開設してある貸金庫のキーだよ」


「…」


即座に流子は頭の中に、ローッカーの中身を想像した。
彼の目をじっと見つめながら…。





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