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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
夜の11時を回った頃、紗耶は慌てて店を出た。
『店の前で待っているよ』
…スマートフォンに千晴からのメールが受信したからだ。

「おい!皆んな!我らがサーヤ姫がお帰りになるぞ!
一緒にお見送りだあ〜!」
酔っ払った部長の小宮が号令を掛ける。
「い、いいです!大丈夫です!」
必死で断ったのに、メンバーは全員店の外に集まってしまった。

「サーヤ、お兄ちゃまが迎えに来てくれるんだって?」
「優しいお兄ちゃまだな〜。
まあ、サーヤちゃん可愛いからなあ〜。心配なんだろな〜」
焼き鳥屋の前、ガヤガヤと賑やかなメンバーの前で、紗耶は千晴を探す。

「…あ…!千晴お兄ちゃま…!」
店の前の車道脇に、深い海の色のドイツ車が停まっていた。

ゆっくりと運転席のドアが開き、千晴が姿を現した。

「お兄ちゃま…!」

野次馬のように興味津々に千晴を見つめるメンバーから、低い響めきが起こる。

千晴は春らしい淡いペールグレーのジャケットに仕立ての良いブルーのストライプのシャツ、長い脚に良く似合うネイビーブルーのスラックス、イタリアの職人にオーダーを出して作らせた焦げ茶色の革靴は曇りひとつなく磨き上げられている。

…繁華街の安っぽい街灯に浮かび上がる千晴の稀有な完璧な彫像のような美貌に…何より、辺りを払うような独特なオーラに、メンバーたちは魂を抜かれたように呆気に取られるばかりだった。

「…紗耶ちゃん。
歓迎会は終わったのかな?」
この上ない優しい微笑みを湛えながら、千晴がしなやかに歩み寄る。

「…千晴お兄ちゃま…。ごめんなさい…。わざわざお迎えを…」
詫びようとする紗耶の髪を千晴は愛おしげに撫でる。
…そうして、メンバーの方を向き直ると、大人の自信と余裕に満ちた表情で爽やかに微笑んだ。

「…初めまして。
紗耶がお世話になっています。
婚約者の高遠千晴と申します。
紗耶はまだまだ子どもなので、どうぞ仲良くしてやってください」

その言葉に、一同は驚愕の響めきを再び上げた。
そうして、異口同音に叫んだ。
「こ、婚約者〜⁈」

千晴は紗耶の華奢な肩を親しげに抱き寄せた。
「ええ。紗耶は私の婚約者です。
私たちは結婚を前提に同居しています。
よろしければ、皆さんで我が家に遊びに来てください。
歓迎しますよ」

…そう言って、完璧な紳士の穏やかな笑みを浮かべたのだ。





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