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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い

翌日の午後、屋敷を訪れた紫織は相変わらず眼が覚めるほどに美しかった。
車から降り、佇む紫織に紗耶は暫し息を飲む。

「紗耶ちゃん…。
ご機嫌よう。お元気そうで…良かったわ…」
紫織は恭しく声をかけ、やや遠慮勝ちに微笑んだ。
…婚約者とは言え、本家に入った紗耶とは立場が違ったことを、紫織は誰よりもよく認識しているのだった。

…アシーナ・ニューヨークの象牙色の鍔の広い帽子…菫色の幅広のリボンがふわりと結ばれたそれは、紫織の嫋やかな美貌によく似合っていた。
ほっそりとしたウエストを更に引き絞った美しいフォルムの真珠色のレースのワンピースの裾は長く…まるで紫織をヴィクトリア朝の貴婦人のように麗しく見せていた。

「お母様…!
会いたかった!」
紫織の姿を見ると、矢も盾もたまらず紗耶はその胸に飛び込んだ。

「まあ、紗耶ちゃん。
子どもみたいに…」
苦笑しながらも、紫織はその馨しいほっそりとした白い腕でぎゅっと抱きしめてくれた。
「子どもでもいいの。
会いたかった。お母様…!」
紫織の温かな胸元からは、紗耶の大好きなカモミールローマンの薫りがした。
…学校で辛いこと、悲しいことがあると、紗耶はいつも泣きながら紫織の胸に抱かれて眠った。
気持ちが落ち着くようにと、紫織はカモミールローマンのアロマを焚いたり、ピローケースに吹きかけてくれた。
「…大丈夫よ、紗耶ちゃん。
何も心配しなくていいのよ…」
子守唄のように囁かれながら、背中を撫でられているといつのまにか眠りに就いていた。
そうして、翌朝には悲しい想いは嘘のように消えていた…。
「おはよう、紗耶ちゃん。よく眠れたかしら?」
美しい紫織の優しい笑顔が、紗耶に自信を与えてくれたのだ…。

「…お母様…あのね…」
紗耶は紫織の腕の中、見上げる。
「なあに?紗耶ちゃん」
…昔と少しも変わらない、紫織の美しくも優しい笑みが紗耶を見つめてくれる。

「…あのね…私ね…お母様が大好き…」
やっぱり、私はお母様が大好きだ…。
綺麗で優しくて…眩しいように魅力的なお母様が、大好きだ。

…例え、千晴お兄ちゃまがお母様を愛していても…私は身代わりだとしても…。

「…まあ…紗耶ちゃん…」

抱き合う二人の前に、千晴が歩み寄る。

「仲睦まじい母子は神聖な美だな…。
…とても羨ましいよ…」

微笑む千晴は、何故か寂しげであった…。



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