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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
そんな二人を垣間見ると、やはり紗耶の胸はちくりと痛む。
…千晴お兄ちゃまはお母様を愛していらっしゃるから、私を花嫁に選ばれたのだと…
私がお母様の娘だから、好きになってくださったのだと…
すべて承知で割り切って、ここに来たつもりだったのに…。
「紗耶ちゃん…?どうしたの?具合いでも悪い?
熱でもあるのかな?」
心配そうに、千晴が紗耶の貌を覗き込む。
「…いいえ、大丈夫よ。お兄ちゃま…」
努めて元気そうに振る舞う紗耶に
「ちょっと見せて…熱は…ないかな」
千晴は自分の額に、紗耶の額を押し当てた。
…睫毛が触れ合うような…唇すら触れ合いそうな近い距離…
千晴の愛用のジャスミンとシダーウッドのアロマがふわりと薫り、身体が熱くなる。
やがてほっとしたように、愛おしげに紗耶の髪を撫でる。
「良かった…。熱はないよ」
…お母様の前で…と、慌てる紗耶など気にする様子もない。
…お兄ちゃまは、ずるい…。
紗耶は改めて思う。
…お母様を愛しているくせに、私も…まるで本当に愛していると誤解させるように、優しくなさる…。
小さくため息をつく紗耶の機嫌を取るように…
「紗耶ちゃん。お茶が冷めるよ。
…それから、スコーンは焼きたてが美味しいよ。
ほら、食べてごらん。
…お口を開けて…」
スコーンを口元に運ばれ、思わず唇を開いてしまう。
最近はよく千晴から食べさせて貰っているからだ。
…習慣は恐ろしい。
さっくりと香ばしく…中はふんわり焼けたスコーンを口に入れる。
…噛み切れなかったスコーンの欠片が紗耶の唇から零れ落ちる。
千晴はそれをそのまま拾い上げ、無造作に自分の口に運んだ。
「美味しい?紗耶ちゃん…」
…紗耶を見つめる千晴の美しい瞳には、紗耶しか映っていない。
それを俄かに信じたいような気持ちになり、見つめ返してはにかみながら微笑む。
「…ええ、美味しいわ…。千晴お兄ちゃま…」
ビリングスレイ・ローズのティーカップを静かに掻き混ぜていた紫織のティースプーンが、がちゃりと耳障りな音を立てた。
「…おやまあ、これはこれは…。
愛らしいコーネリアと、麗しくも謎めいたガブリエルが咲き乱れているお茶会だこと…。
…無粋者がお邪魔して良いものか、迷うほどに美しい光景だわ…」
…徳子の、どこか芝居掛かった…けれど辺りを払うように威厳のある声が、響き渡った。
…千晴お兄ちゃまはお母様を愛していらっしゃるから、私を花嫁に選ばれたのだと…
私がお母様の娘だから、好きになってくださったのだと…
すべて承知で割り切って、ここに来たつもりだったのに…。
「紗耶ちゃん…?どうしたの?具合いでも悪い?
熱でもあるのかな?」
心配そうに、千晴が紗耶の貌を覗き込む。
「…いいえ、大丈夫よ。お兄ちゃま…」
努めて元気そうに振る舞う紗耶に
「ちょっと見せて…熱は…ないかな」
千晴は自分の額に、紗耶の額を押し当てた。
…睫毛が触れ合うような…唇すら触れ合いそうな近い距離…
千晴の愛用のジャスミンとシダーウッドのアロマがふわりと薫り、身体が熱くなる。
やがてほっとしたように、愛おしげに紗耶の髪を撫でる。
「良かった…。熱はないよ」
…お母様の前で…と、慌てる紗耶など気にする様子もない。
…お兄ちゃまは、ずるい…。
紗耶は改めて思う。
…お母様を愛しているくせに、私も…まるで本当に愛していると誤解させるように、優しくなさる…。
小さくため息をつく紗耶の機嫌を取るように…
「紗耶ちゃん。お茶が冷めるよ。
…それから、スコーンは焼きたてが美味しいよ。
ほら、食べてごらん。
…お口を開けて…」
スコーンを口元に運ばれ、思わず唇を開いてしまう。
最近はよく千晴から食べさせて貰っているからだ。
…習慣は恐ろしい。
さっくりと香ばしく…中はふんわり焼けたスコーンを口に入れる。
…噛み切れなかったスコーンの欠片が紗耶の唇から零れ落ちる。
千晴はそれをそのまま拾い上げ、無造作に自分の口に運んだ。
「美味しい?紗耶ちゃん…」
…紗耶を見つめる千晴の美しい瞳には、紗耶しか映っていない。
それを俄かに信じたいような気持ちになり、見つめ返してはにかみながら微笑む。
「…ええ、美味しいわ…。千晴お兄ちゃま…」
ビリングスレイ・ローズのティーカップを静かに掻き混ぜていた紫織のティースプーンが、がちゃりと耳障りな音を立てた。
「…おやまあ、これはこれは…。
愛らしいコーネリアと、麗しくも謎めいたガブリエルが咲き乱れているお茶会だこと…。
…無粋者がお邪魔して良いものか、迷うほどに美しい光景だわ…」
…徳子の、どこか芝居掛かった…けれど辺りを払うように威厳のある声が、響き渡った。