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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
お茶会がお開きになり、帰る紫織を紗耶は千晴とともに玄関まで送った。
「お母様、本当にもうお帰りになるの?
お父様が出張なら、もっとゆっくりしてらしてもいいのに…」
別れがたくて引き止める 。
紗耶は紫織が大好きだ。
紫織がそばにいると、無条件で安心するのだ。
それは幼い頃からの刷り込みであった。
紫織はふわりと優しく微笑み、紗耶の髪を撫でた。
「…明日はアロマのお教室のワークショップがあるし、準備をしなくてはね。
紗耶ちゃん、お父様にメールを差し上げて。
貴女に会えなくて寂しがっていらしたわ」
紗耶は素直に頷く。
優しい政彦も紗耶は大好きだ。
政彦にも会いたいな…と思う。
「分かったわ」
紫織の白く細い指が紗耶の頰をそっとなぞる。
「…千晴さんに、たくさん可愛がっていただきなさい」
囁くように言われ、紗耶の頰は熱くなる。
…なんだか、その言葉が艶めいて聞こえたからだ。
「…お母様…」
千晴を見上げ、紫織は静かに微笑む。
「…千晴さん。紗耶を、よろしくお願いいたします」
「もちろんです。
貴女の大切な紗耶ちゃんを僕は必ず幸せにします。
紗耶ちゃんは僕の宝物ですから…」
…身体がきゅっと縮こまりそうになるほどに嬉しい言葉…。
…でも…。
身代わりなのだ…。私は…。
お母様の…。
幸福な気持ちが風船が萎むように小さくなる。
「…紗耶は幸せですわ。千晴さんにそんなにも大切にされて…。
良かったわね、紗耶ちゃん…」
…千晴が紫織を愛していることを、紗耶が知っていると、紫織は知らない。
だから、そんな風に笑えるのだろう。
…けれど…。
紗耶は思う。
…お母様は、千晴お兄ちゃまを、どう思っていらっしゃるのかしら…。
その美しい唇から、愛の言葉は語られてはいないけれども…。
紫織を乗せたハイヤーが遠ざかるのをぼんやり見つめていると、背後から不意打ちのように抱き竦められた。
「千晴お兄ちゃま…?」
千晴は紗耶の髪に貌を埋める。
「…紗耶ちゃんは、どこにもいかないよね?
ずっと、僕とここにいるよね?」
熱い吐息がうなじにかかる。
甘美な痺れに、身体が震える。
「…あ…」
そのまま、男の胸に抱き込まれる。
「…紗耶ちゃん…僕は…」
…けれど、その先は…
「失礼いたします。紗耶様。大奥様がお呼びです」
徳子付きの侍女の七重によって無機質に遮られたのだ。
「お母様、本当にもうお帰りになるの?
お父様が出張なら、もっとゆっくりしてらしてもいいのに…」
別れがたくて引き止める 。
紗耶は紫織が大好きだ。
紫織がそばにいると、無条件で安心するのだ。
それは幼い頃からの刷り込みであった。
紫織はふわりと優しく微笑み、紗耶の髪を撫でた。
「…明日はアロマのお教室のワークショップがあるし、準備をしなくてはね。
紗耶ちゃん、お父様にメールを差し上げて。
貴女に会えなくて寂しがっていらしたわ」
紗耶は素直に頷く。
優しい政彦も紗耶は大好きだ。
政彦にも会いたいな…と思う。
「分かったわ」
紫織の白く細い指が紗耶の頰をそっとなぞる。
「…千晴さんに、たくさん可愛がっていただきなさい」
囁くように言われ、紗耶の頰は熱くなる。
…なんだか、その言葉が艶めいて聞こえたからだ。
「…お母様…」
千晴を見上げ、紫織は静かに微笑む。
「…千晴さん。紗耶を、よろしくお願いいたします」
「もちろんです。
貴女の大切な紗耶ちゃんを僕は必ず幸せにします。
紗耶ちゃんは僕の宝物ですから…」
…身体がきゅっと縮こまりそうになるほどに嬉しい言葉…。
…でも…。
身代わりなのだ…。私は…。
お母様の…。
幸福な気持ちが風船が萎むように小さくなる。
「…紗耶は幸せですわ。千晴さんにそんなにも大切にされて…。
良かったわね、紗耶ちゃん…」
…千晴が紫織を愛していることを、紗耶が知っていると、紫織は知らない。
だから、そんな風に笑えるのだろう。
…けれど…。
紗耶は思う。
…お母様は、千晴お兄ちゃまを、どう思っていらっしゃるのかしら…。
その美しい唇から、愛の言葉は語られてはいないけれども…。
紫織を乗せたハイヤーが遠ざかるのをぼんやり見つめていると、背後から不意打ちのように抱き竦められた。
「千晴お兄ちゃま…?」
千晴は紗耶の髪に貌を埋める。
「…紗耶ちゃんは、どこにもいかないよね?
ずっと、僕とここにいるよね?」
熱い吐息がうなじにかかる。
甘美な痺れに、身体が震える。
「…あ…」
そのまま、男の胸に抱き込まれる。
「…紗耶ちゃん…僕は…」
…けれど、その先は…
「失礼いたします。紗耶様。大奥様がお呼びです」
徳子付きの侍女の七重によって無機質に遮られたのだ。