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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
…徳子は本屋敷から林の小径を五百メートルほど行ったところ…離れた別館に居を構えていた。
その煉瓦造りの建物は蔦や蔓薔薇に鬱蒼と覆い尽くされていて、さながらグリム童話の舞台になりそうなゲルマンの古い魔女の屋敷のようだ。

…幼い頃、紗耶は華子たちに無理やり手を引っぱられ、肝試しに連れていかれたことがある。
宵闇迫る頃、徳子の屋敷の前で…
「紗耶ちゃん。ここはね、怖い魔女のお家なのよ。
泣き虫は釜に入れられて、茹でられて、食べられちゃうんだって!
紗耶ちゃん、かわいそう〜!」
耳元で囁かれ、突き飛ばされた。
華子はそのまま麗華と笑いながら走り去ったのだ。

紗耶はパニックになり、泣きながらその場に座り込んだ。

…そのあとの記憶はぷつりと途切れている。

気がつくと、紗耶は家の自分のベッドに寝かされていたのだ。
ショックの余り高熱を出し、寝込んでしまったらしい。

さすがに酷すぎると、政彦は華子の父親に連絡を入れた。
入り婿の華子の父親は、ひたすら平謝りしていたらしい。

「怖かったわね。紗耶ちゃん。でも、もう大丈夫よ。
何もかも忘れて、ぐっすり眠りなさい…」
紫織が優しく額に手を当ててくれた。
…ティーツリーの幽かな薫り…。
…微かな記憶の中…同じ薫りを嗅いだような気がした…。
泣きじゃくっている時、温かな力強い腕に抱き上げられ、頭を撫でられたような気がした…。

…けれどそれが誰か、問いかける間もなく、紗耶は再び眠りの世界に沈み込んでいったのだ…。



重厚な扉のノッカーを鳴らす。
ややもして、静かに扉が開かれた。
「…いらっしゃいませ。紗耶様。
大奥様がお待ちです。
どうぞこちらに…」

襟の詰まった裾の長い黒いドレスの制服に身を包んだ侍女の七重がにこりともせずに、硬質な表情のまま、紗耶を中に招き入れた。
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