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異邦人の庭 〜secret garden〜
第5章 ペニー・レーンの片想い
「お掛けなさい」
女王のように威厳に満ちた仕草と言葉で、紗耶に自分の前の椅子を勧める。
「失礼いたします」
緊張しながら腰を下ろす。
「紗耶さんには温かいショコラを。
私にはホットワインをお願い」
「畏まりました」
七重は一分の隙もない動作で一礼すると、音もなく部屋を退出した。
「千晴さんは心配しているでしょうね。
可愛い貴女が私に呼び出されて…。
近ごろの千晴さんは貴女のことで頭が一杯のようよ。
私へのお手紙も貴女のことばかり。
それはもう思春期の男の子みたいに…」
紗耶は眼を見張る。
可笑しそうに笑う徳子はどこかお茶目な少女のようだ。
獅子のような徳子が、こと千晴のこととなると、人柄が変わったように優しくなるのだ。
「紗耶さん。千晴さんは貴女にすっかり夢中よ」
「…恐れ入ります…」
紗耶はうなじを桜色に染め、俯いた。
そんな紗耶を徳子は暫く見つめ、やがて、エメラルドの大粒の指輪を嵌めた手でマントルピースを指し示した。
「あちらをご覧なさい。
千晴さんと…私の亡くなった息子とその妻…花織さん。
…千晴さんの両親の写真が飾られているの」
促され、立ち上がる。
マントルピースの上にはウェッジウッドのジャスパーマグノリアの淡いブルーの写真立てが置かれていた。
「手に取ってご覧なさい」
「…はい…」
おずおずと手を伸ばし、写真を見つめる。
千晴に良く似た長身で端正な貌立ちの男性と…傍らには千晴らしき赤ん坊を抱く若い妻の姿が映っていた。
「…っ…⁈」
紗耶は思わず息を飲んだ。
…若い妻…千晴の母は、紫織であった。
いや、紫織に生き写しであったのだ。
女王のように威厳に満ちた仕草と言葉で、紗耶に自分の前の椅子を勧める。
「失礼いたします」
緊張しながら腰を下ろす。
「紗耶さんには温かいショコラを。
私にはホットワインをお願い」
「畏まりました」
七重は一分の隙もない動作で一礼すると、音もなく部屋を退出した。
「千晴さんは心配しているでしょうね。
可愛い貴女が私に呼び出されて…。
近ごろの千晴さんは貴女のことで頭が一杯のようよ。
私へのお手紙も貴女のことばかり。
それはもう思春期の男の子みたいに…」
紗耶は眼を見張る。
可笑しそうに笑う徳子はどこかお茶目な少女のようだ。
獅子のような徳子が、こと千晴のこととなると、人柄が変わったように優しくなるのだ。
「紗耶さん。千晴さんは貴女にすっかり夢中よ」
「…恐れ入ります…」
紗耶はうなじを桜色に染め、俯いた。
そんな紗耶を徳子は暫く見つめ、やがて、エメラルドの大粒の指輪を嵌めた手でマントルピースを指し示した。
「あちらをご覧なさい。
千晴さんと…私の亡くなった息子とその妻…花織さん。
…千晴さんの両親の写真が飾られているの」
促され、立ち上がる。
マントルピースの上にはウェッジウッドのジャスパーマグノリアの淡いブルーの写真立てが置かれていた。
「手に取ってご覧なさい」
「…はい…」
おずおずと手を伸ばし、写真を見つめる。
千晴に良く似た長身で端正な貌立ちの男性と…傍らには千晴らしき赤ん坊を抱く若い妻の姿が映っていた。
「…っ…⁈」
紗耶は思わず息を飲んだ。
…若い妻…千晴の母は、紫織であった。
いや、紫織に生き写しであったのだ。