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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
…高遠千智との結婚は、徳子がスイスのフィニッシングスクールに在学中に、千智の母…高遠本家の御台所様と言われる人物から一方的に取り決められた。

日本に帰国していた徳子の母が慌てた様子で手紙をよこしたのだ。
『御台所様が千智様の花嫁には徳子をとお決めになったらしいの。
ご本家のご命令には逆らえないわ。
すぐに帰国なさい』
と…。

徳子は憤慨した。
「お貌も見たことのない相手といきなり結婚だなんて。
そんなのないわ。
時代錯誤よ。横暴すぎるわ」
徳子は高遠一族の娘とは言え、外交官の父親の仕事柄、生まれた時からずっと海外で過ごして来た。
したがって、高遠家の御台所様はおろか、肝心の当主の千智にも会ったことはなかったのだ。
今まで自由に伸び伸びと西洋文化のもとに育ってきた徳子には到底受け入れがたい結婚だったのだ。

徳子の胸中を推し量るかのように、御台所から手紙が届いた。
『千智さんは今、ハイデルベルク大学に留学中です。
お会いして、今後のことをお決めなさい』
…と。

急遽、ローザンヌの三ツ星、ホテル・リッツのダイニングで、二人は対面することになった。

…何が今後のことよ。
私はまだ十七歳よ!
結婚するなんて一言も言ってないのに!
どうせ名門貴族を鼻にかけた傲慢で尊大な男よ。
断ってやる…絶対に断ってやるわ!

中っ腹になりながら、ダイニングに向かった徳子を待っていたのは、人の良さそうな…何よりも恥ずかしがり屋な性格が透けて見えるような眼鏡を掛けた朴訥な大学生の青年であった。

「た、丹下徳子さんですか?
初めまして。高遠千智です。
今日はわざわざすみません。
あ、あのぅ…。何を召し上がりますか?
…というか…僕、まだフランス語は余り詳しくないので、メニュー、読んで貰ってもいいですか?」
赤くなりながら革張りのメニューを差し出した青年は、まるで徳子より歳下のような素朴さで、思わず拍子抜けした。


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