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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
夫を送り出したのち、徳子はゆっくりと庭園に降り、屋敷南側の薔薇園へと歩き出す。
美しく刈り込まれた芝、その先に徳子が何より愛でている薔薇園があるのだ。

…一足ごとに、様々に乱れ咲く薔薇の妙なる香気が徳子を優しく包む。
徳子はゆっくりと深呼吸する。
ロザリアンと呼ばれる薔薇愛好家が何より待ち焦がれる五月がやってきたのだ。

…スコットランドに移ってきたのは、三年前だ。
エジンバラ大学に植物薬草学の教授として千智は招かれた。
大学から少し離れたボーダーズ地方のメルローズの地に建てられていた歴史ある美しいマナーハウス…スコットランド貴族のフォークランド子爵の所有物であったが、高齢の子爵がロンドンに移り住むという話を聞き、千智が譲り受けたのだ。

このマナーハウスには、薔薇愛好家として名だたる子爵の素晴らしい薔薇園があったからだ。
その薔薇園ごと大切に管理してくれるひとに託したいという子爵の意向に徳子が応える形になったのだ。

薔薇作りはハイデルベルクにいる頃から夢中になりだした徳子の楽しみだったからだ。

「こんなにも美しいレディに管理してもらえるなら、私の薔薇は幸せですよ」
エリザベス女王の夫君、エジンバラ公の縁戚だという由緒正しい貴族の子爵は、深い皺ごとそのアッシュグレーの瞳を優しく細めた。

徳子は小さく…やや寂しく微笑った。
「…私には子どもがおりませんから…。
薔薇は私の愛おしい娘のような存在なのですわ…」
傍らの千智は一瞬息を呑んだが、何も言わなかった。



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