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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
薔薇園に歩を進めると、今、一番の強い香気を放つルイーズ・オディエの花の華やかな濃いピンク色が眼に入り、徳子は思わず微笑む。

手に取り薫りを嗅ぐ。
…甘く芳しくしっとりとした薔薇の香気…。

…そのすぐ隣に咲くのは、可憐なイエローの木香薔薇だ。
徳子はようやく咲き始めた木香薔薇の花弁を撫でる。

木香薔薇は千智の頼みで植えた薔薇だ。
ほかの薔薇は何も言わなかったのに、木香薔薇だけは
「木香薔薇をぜひ、貴女の薔薇園に植えてください」と懇願されたのだ。
…なぜ、木香薔薇だけに拘るのかは未だに不明なのだが…。

…棘が少ないからお好きなのかしら…。

ぼんやり考えていると、ふわりとペン・ハリガンのトワレの薫りと、長く引き締まった腕に身体ごと絡み取られた。

「何を考えていらっしゃるのですか?」
…首すじに触れる熱い吐息…。
「ソールズベリー卿…?」
振り返るその先に、地中海の蒼より美しいブルーの瞳に見つめられる。
「アルフレッドですよ、ヨシコ…。
プロフェッサー・タカトウはお出かけになられましたか?」
熱情に満ちたその瞳に甘えるような色を認め、徳子はわざと邪険に顎を反らせる。
「また裏玄関から入っていらしたのですか?
本当に非常識な方…。
…それに…夫がまだいたらどうなさるおつもりだったのですか?」
冷たい口調にめげることもなく、アルフレッド・ブルー・ソールズベリーは徳子の髪を愛おしげに撫でる。
「プロフェッサーはいつも八時にはご出勤なさる。
エジンバラは遠いですからね。
そうしてそのまま研究室に泊まり込まれて、こちらのマナーハウスには滅多にお帰りにならない。
僕なら考えられない。こんなにもお美しく魅力的な妻を放っておくなんて。
プロフェッサーはどうかしています」

…返す言葉がなくて黙り込む徳子の白い頬に、アルフレッドは優しく指を伸ばす。
「…昔から、花盗人は罪には問われないのですよ。
ましてやこんなにも美しい薔薇は、打ち捨てる方がよほど罪だ…」
反論しようと開いた唇は、そのまま若く美しく情熱的な若者の唇に塞がれた…。
…愛の言葉とともに…。

「…愛しています。レディ・ヨシコ…」





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