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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
「本当にレディ・ヨシコの育てられたコンテ・ド・シャンボールは美しいこと。
うちの薔薇園では、何度育てても枯れてしまうのよ。
株分けしていただけて嬉しいわ」
オルソープ男爵夫人は窓越しに、庭師が作業する薔薇園を眺めながら、徳子を振り返り微笑んだ。

社交界の花とも唄われる彼女は、蜂蜜のような豊かな金髪を持ち、その瞳は翡翠のように美しい翠色だ。
イーディス・オルソープ男爵夫人は四十になったばかりだが、十年も前に親子ほど年の違う夫を亡くし、既に未亡人であった。
けれど若く美しく…そして、夫から巨額の財産を受け継いだ夫人はメリー・ウィドウを地で行くように、たくさんの男性の信奉者に囲まれ、華やかな寡婦生活を送っているのだ。

「お気に召していただけて、幸いですわ。
…この薔薇も、私たちはいつまで愛でていられるか分かりませんもの…」
夫人に二杯目の熱いダージリンを勧めながら、言葉尻に憂いが混ざる。
…徳子の最近の不安が心を過ったのだ。

「…戦争のことを心配していらっしゃるのね?」
オルソープ男爵夫人は美しい眉を顰めた。
「…ええ…。
雲行きはいよいよ怪しくなってまいりましたわ。
日本はどうやらアメリカや…英国とも敵対関係になりそうです…」

日々新聞紙面に取り沙汰される戦況に、日本が加わるのも時間の問題だろう。
「日本の家からは一日も早く帰国しろと、矢の催促なのです」
分けても高遠家の御台所の命令とも言える手紙は毎日届く。
千智は、今の研究が纏まるまで…となんとか引き延ばそうとしているが、それが許されるのもあと僅かだろう。
…日本が米国に戦線布告したら、同盟国である英国に留まることはできない。

…ここを、去らなくてはならない…。

「…ソールズベリー卿のことでお悩みなのね?」
徳子ははっと貌を上げた。

「ご心配なさらないで。
アルフレッドは私の従姉妹の息子よ。
貴女とのことは、アルフレッドからすべて聴いているわ。
…レディ・ヨシコ。私は貴女の味方。
…貴女とアルフレッドの恋の味方よ…」
白く嫋やかな手が、徳子の手を優しく握りしめた。

「…レディ・イーディス…」
徳子は、初めて安堵のため息を吐いた。



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