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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
夜の帳が下りた薔薇園は、仄白く浮かび上がる薔薇の花灯りと、その妙なる薫りだけが揺蕩い、まるで夢の世界のようだ。
息を潜め足音を忍ばせて、徳子は歩いた。

…今夜は月明かりも、星明かりも何もない。

まるで自分の恋の行く末を暗示するかのように思え、不安が押し寄せる。

…アルフレッドは…本当に来てくれるのだろうか…。

…と…


「…ヨシコ…。僕だよ。アルフレッドだ」
東屋の向こうから、密やかにアルフレッドの低音の美しい声が聞こえた。

「アルフレッド…!」
ペンハリガンの薫りが、その麗しい貌よりも先に徳子に近づく。
その薫りごと、力強い腕に抱きすくめられた。
「…ヨシコ!迎えに来たよ。
僕と一緒にスイスに行こう。
あそこは永世中立国だ。
敵も味方もない。
イーディスが僕らの旅券も住まいも準備してくれた。
今すぐ、行こう。
…僕を、愛しているだろう?」
手にしたランプの灯りに照らされた愛おしい恋人のその貌は、やはり夢の王子のように美しい。

「…ええ。愛しているわ」
…私を、初めて女として愛し、需めてくれたひと…。

アルフレッドは美しい蒼い瞳を細め、ほっとしたように笑った。
「良かった…。
さあ、行こう。このままでいい。着の身着のまま…僕とともに来て欲しい」

…手を引かれ、歩きかけた時…
ふわりと徳子の髪に、柔らかく一房の薔薇が振り掛かった。
柔らかなその薫りが、優しく話しかけるように徳子に纏わりつく。

そっと手に取る。
「…木香薔薇だわ…」
夜目にも黄金色に輝く、慎み深く可憐な薔薇だ…。

『お願いがあります。
貴女の薔薇園に、木香薔薇を植えてくださいませんか?』
…千智が徳子にねだったことは、後にも先にもこのことだけだった…。
なぜと聞いても微かに微笑むだけで、何も語ってはくれなかった…。
…私も、聞き返さなかった…。

「…なぜかしら…。
…なぜ、木香薔薇だけを…」
徳子は独り言ちた。

「どうしたの?ヨシコ。
さあ、早く行こう」
怪訝そうな貌で強く手を引かれ、徳子はアルフレッドを見上げる。
「…待って、アルフレッド。
私、千智様にきちんとご挨拶してくるわ」
「ヨシコ!」
驚いたように声を上げるアルフレッドの手を握りしめた。
そうして、毅然と告げる。
「千智様を騙して出て行くのは嫌なの。
大丈夫。必ず行くわ。
レディ・イーディスのお屋敷で待っていて」
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