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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
徳子の形の良い唇は、微かに震えたのみで、言葉は成さなかった。
細かくその長く濃い睫毛を震わせながら、自分を見上げる妻に、千智は優しく告げた。
…まるでお茶会かオペラ観劇に出かける妻を送り出すかのように、何のてらいも無く…。
「早くお行きなさい。
車をお使いになるなら、運転手を呼びましょう。
大丈夫です。彼には口止めしておきます。
荷物は?何も持たれないで良いのですか?」
「千智様…!貴方は…」
…もしかして…この方は、すべてご存知だったのではないだろうか…。
足元が…全身が沈み込むような衝撃に、立っているのが精一杯だ。
そんな妻を、千智は寧ろ労わるような眼差しで見つめた。
そうして、いつもの物静かな微笑みで告げたのだ。
「…徳子さん。今まで、本当にありがとう。
僕のように平凡でつまらぬ男の妻でいてくれて…。
それから、僕のためにずっと辛い思いをさせてしまって、申し訳なかったです。
今まで我慢をさせてしまって、ごめんなさい。
僕は…徳子さんと夫婦になれて、本当に幸せで楽しかったです。
…貴女はいつも誰よりも美しくて、きらきら輝いていて、眩しくて…貴女といる瞬間瞬間は夢のように幸せだった…。楽しかった…。
…もう、充分です。
貴女は、貴女の幸せを掴んでください」
堪らず叫ぶ。
「千智様…!なぜ…?なぜそんな風に仰るの?
私は貴方を裏切ったのですよ?
貴方を騙して…裏切って…。
そんな私になぜ、そんな風に優しくなれるのですか?」
蒼白な貌で、震える声で詰め寄る徳子に、千智は慈愛に満ちた…そして、どこか秘めた熱情を感じさせる表情で見つめ返した。
「…貴女が、僕の初恋だからです…」
細かくその長く濃い睫毛を震わせながら、自分を見上げる妻に、千智は優しく告げた。
…まるでお茶会かオペラ観劇に出かける妻を送り出すかのように、何のてらいも無く…。
「早くお行きなさい。
車をお使いになるなら、運転手を呼びましょう。
大丈夫です。彼には口止めしておきます。
荷物は?何も持たれないで良いのですか?」
「千智様…!貴方は…」
…もしかして…この方は、すべてご存知だったのではないだろうか…。
足元が…全身が沈み込むような衝撃に、立っているのが精一杯だ。
そんな妻を、千智は寧ろ労わるような眼差しで見つめた。
そうして、いつもの物静かな微笑みで告げたのだ。
「…徳子さん。今まで、本当にありがとう。
僕のように平凡でつまらぬ男の妻でいてくれて…。
それから、僕のためにずっと辛い思いをさせてしまって、申し訳なかったです。
今まで我慢をさせてしまって、ごめんなさい。
僕は…徳子さんと夫婦になれて、本当に幸せで楽しかったです。
…貴女はいつも誰よりも美しくて、きらきら輝いていて、眩しくて…貴女といる瞬間瞬間は夢のように幸せだった…。楽しかった…。
…もう、充分です。
貴女は、貴女の幸せを掴んでください」
堪らず叫ぶ。
「千智様…!なぜ…?なぜそんな風に仰るの?
私は貴方を裏切ったのですよ?
貴方を騙して…裏切って…。
そんな私になぜ、そんな風に優しくなれるのですか?」
蒼白な貌で、震える声で詰め寄る徳子に、千智は慈愛に満ちた…そして、どこか秘めた熱情を感じさせる表情で見つめ返した。
「…貴女が、僕の初恋だからです…」