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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
「…初恋…?
どういうことですか?」
徳子は美しい眉を顰めた。
…千智と徳子の結婚は、高遠家の御台所が決めた因習としきたりによるものだ。
ローザンヌで会った時より前に、二人に面識はない。
…ないはずだ。

千智は遠くを見るような…懐かしむような眼差しをした。
「…あれは僕がまだ十二歳の五月のことでした…。
その日、高遠家には一族が集まり、庭園で祝宴が開かれていました。
…おそらくは祖父の誕生日会かなにかだったのでしょう。
大人はもちろん、子どもたちもそれはそれは大人数が集まっていたのです。
…その頃、僕は病弱で…おまけに僅かに吃音がありましてね…。
そのせいで話すのが苦手で、人前に出るのを極力避けていました。
そんな僕を薔薇園の片隅で、親戚の同年代の男の子たちが散々揶揄ったり、意地悪をしたり…まあ言えば虐められていたのです。
何も言い返せずに俯向く僕の前に、不意にひとりの美しい少女が現れました。
『大勢で一人をいじめるなんてひきょうだわ。
あなたたちみたいなひきょうなおバカさんはしょうらい絶対にもてないから!
それから、今、高遠のおじさまを呼んだから!』
…小さな七歳くらいの女の子が、僕を庇うかのように立ちはだかり、男の子たちを蹴散らしてくれたのです。
…呆気に取られている僕にその少女は、少し怒ったようにこう言いました。
『あなたも言い返さなきゃだめじゃない!
やられたらやり返す。
それが男でしょ?』
歳下の女の子にそう言われしゅんとなった僕に、彼女は傍らのアーチに咲く木香薔薇を小さな白い手で一房手折ると、僕に差し出したのです。
『私のだいすきな薔薇なの。
これをあげるから元気だして』
…そうして不意に、きらきらした陽の光が一杯に射したかのようにぱあっと笑うと、あっという間に去っていったのです」

徳子ははっとした。
…高遠本家…庭園の祝賀会…歳上の少年…べそをかいていた眼鏡の少年…そして、木香薔薇…。
ジグソーパズルのように、幼い頃の記憶の断片が鮮やかに合わさる。
…そういえば、お父様のお仕事の任期の合間に一時帰国したことがあったわ…。

…もしかして…

「…それは…もしかすると…」
恐る恐る口にすると…

「…はい。それが幼い頃の徳子さんでした…」
あの日の少年の眩しげな泣き笑いの面差しが、静かに千智に重なった。

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