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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
「…徳子さん…。
僕たちは、もう遅いのでしょうか?
…もうやり直すことはできないのでしょうか?」
おずおずと…けれどしっかりと、千智の手が徳子の手を握りしめる。
「貴女がどうしてもソールズベリー卿のところに行かれたいのなら…それが貴女にとっての幸せなら、僕は諦めるつもりでした。
けれどもし、ほんの少しでも僕とやり直してくださるお気持ちがあるなら…もう一度、僕にチャンスをいただけないでしょうか?」

少しも徳子を責めない誠実な言葉の数々に、胸が苦しくなる。
…私は、この心優しいひとをどれだけ苦しめていたのだろうか…と。
慚愧の想いに苛まれる。

徳子は堪らずに千智に背を向ける。
「…千智様はお優しすぎるわ。
…私は…酷い妻なのですよ。
…貴方を裏切り…貴方以外の男性に身を任せた…。
そんな…不貞を働いた私を、貴方は許せるのですか?」

背後から温かな腕が徳子を静かに、強く抱く。
「…許せます。
貴女は僕を裏切ったわけではない。
…貴女は、恋をしただけです。
僕が与えて差し上げられなかった…美しく激しい恋を、しただけなのですから…」

「…千智様…!
…私は…私は…」
俯く貌を、優しく持ち上げられる。
眼鏡の奥の優しい瞳は、熱い情動に満ちていた。

「…僕の愛する妻は貴女だけだ…。
僕は貴女を失いたくない。
徳子さん。
…僕とともに生きていただけませんか?」
涙に濡れた頰を優しく拭われる。

「…千智様…」
微かに頷く徳子の唇を、千智は静かな情熱を込めて押しつつみ、愛の言葉と息吹を吹き込んだ。

「…愛しています…。
もう離さない…」

…徳子はそっと瞼を閉じ、短くも甘く激しく燃えた生涯ただ一度の恋に…若く美しいうたかたの恋人に別れを告げたのだった。









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