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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
「…アルフレッドには手紙を書いたわ。
『私は貴方とスイスには行きません。
夫と日本に帰ります。
夢はもう覚めたのです。
私のことは忘れてください。
…美しい薔薇の想い出を、ありがとう』…と」

開け放たれた窓の向こう…
どこまでも広がる射干玉色の闇…
それは、あの夜に続いているような錯覚に襲われる。

…けれど、ここは日本で、今は21世紀なのだ。
あの日のアルフレッドはどこにもいない。
…あの日の私もまた…。

「…アルフレッドは作家になるのが夢だと言っていたの。
『僕はいつか、貴女と僕の物語を小説にするよ。
…それは永遠に続く愛の物語だ…』と…」
徳子はつと、壁際のアンティークの本棚に眼差しを向ける。
一冊の飴色の重厚なハードカバー…。

ある予感が閃き、紗耶は息を飲む。
視線で徳子の許しを乞う。
立ち上がり、その本を手に取る。
…かなり以前に出版された、洋書だ。
紙面は淡い琥珀色となっていた。
フランス語で書かれたタイトルと著者名…。
紗耶は中等部からフランス語を習っていたので、何とか読めた。

「…うたかたの薔薇の褥…アルフィー・B・ソールズベリー…。
…ソールズベリー…!
まさか…あのソールズベリーさん⁈」
紗耶は驚き、声を上げた。
「フランスのゴンクール賞を受賞したソールズベリーさんがアルフレッド様なのですか?」
「そう…。貴女もご存知なの。
…アルフレッドは有名な作家になったのね…」
嬉しげに瞬きをする。
「もちろんです。
マルグリット・デュラスも受賞したフランスの権威ある文学賞なんです。
ソールズベリーさんは幻想的で耽美的な世界観の作品が多いんですけれど、恋愛小説はまだ一冊も書いていらっしゃらなかったのに…。
…この物語は…もしかしたら…」

徳子はそっと微笑む。
「…戦後、十数年も経ってから無記名でパリから送られてきたの。
実はまだ紐解いたことがないのよ。
…読むのは旦那様に悪いような気がしてね…」
徳子は愛情の込もった眼差しをマントルピースの上の写真立てに向ける。
千晴と両親の写真立ての隣…。
…正装姿の徳子と寄り添い映る品の良い優しげな老紳士は、十年以上前に亡くなった千智だ。

「…あの…。大お祖母様…」
紗耶は遠慮勝ちに口を開いた。
「…ソールズベリーさんはまだご存命です。
お会いになりたいと、思われませんか…?」



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