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異邦人の庭 〜secret garden〜
第6章 ペニー・レーンの片想い 〜Lady Yの告白〜
屋敷を囲む林のどこからか、梟が鳴く声が聞こえた。
…もうとうに夜半を過ぎていた。
早くコーネリアの娘を、千晴のもとに帰してやらなくては…と思いながらも、この娘の清らかで無垢な優しさに甘えて、誰にも語ってはこなかった過去を告白する心地よさを、徳子はしみじみと感じていた。

「…それから私は戦後の混乱の中、必死で幼い息子を育てました。
貴女はご存知かしら。
華族制度の廃止や財閥解体がGHQの命令により為され、我が高遠家は存亡の危機に立たされました。
農地や領地は殆ど没収されました。
欲深な分家の者に不動産の一部も掠め取られました。
折しも、身体のお弱い旦那様はそれらがご心痛で、暫く床に着かれてしまいました。
…けれど私に嘆いている時間はなかった…。
私は屋敷をGHQ向けのサロンに改築し、バーを開きました。
周りや世間からは非難轟々でしたよ。
アメリカの犬、売春婦呼ばわりされたこともありました。
けれど私は何とも思わなかった。
…旦那様と我が子を守ること…、そして高遠家を守ること。
そのためなら、何でもしようと決意していたのです。
…例え、犯罪を冒しても…。
旦那様と千聖を守るためなら、人を殺めることも厭わないと…。
それくらいの覚悟で、毎日を戦っていたわ」
「…大お祖母様…」
可憐な娘は、徳子の代わりに涙を流している。

…徳子は、ふっと目尻を和らげる。
「…私が今も恐ろしい獅子だの魔女だのと言われているのはそのためよ」

紗耶は首を振った。
白い小さな手で涙を拭いながら、震える声で…けれどはっきりと告げた。

「大お祖母様は凄い方です。
…私…私も、大お祖母様みたいになりたい。
強くなりたい。
…愛するひとを守れるように…強くなりたいです」
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