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異邦人の庭 〜secret garden〜
第7章 コーネリアの娘
高尾山行きの電車の車内は、早朝とあって乗客も疎らであった。
ほぼ、サークルのメンバーたちで貸切のような中、話題は紗耶のことで持ちきりだった。

「いやあ〜、朝から綺麗なものを見せもらったわ〜」
「…いや、俺はむしろ見ちゃいけないものを見てしまったような気もするな…」
「そうだなあ〜。清らかなサーヤちゃんの、そ〜ゆ〜シーンはちょっと…いや、か〜な〜り〜ショックですよ、これは」

紗耶は端に座り、小さくなっていた。
「…すみません…」
…お兄ちゃまの馬鹿…。
皆んなが見ている前で…。

初めてのキスなのに…。
状況が状況すぎて、肝心のキスの感動が吹っ飛んでしまった。


「お前ら、下らねえこと言ってんじゃね〜よ。
紗耶は婚約してんだから、別にあんなんフツーだろうがよ」
傍らの隼人がぶっきら棒に一喝した。

「そうだよね。婚約してるんだもん。チューくらいするっしょ。
てかさ、サーヤ。もうヤッたの?あのイケメン大学教授と」
隣に座る大道寺梢がさらりと聞いた。
隼人が眼を吊り上げる。
「おい!アネゴ!下品なこと聞いてんじゃねえよ!」
「だって婚約して同棲してんだよ?
何もない方が不自然じゃない?」
こともなげに言い返す梢に、紗耶は慌てて首を振った。
「な、何もしてません!
…父との約束なんです。
私が大学を卒業するまでは、清い関係でいる…と。
それに…お兄ちゃまは紳士なんです。
…私のことを大切にしてくれているんです」

…だから、何もしないのだ。
お父様との約束を守るため…。
何より、私の気持ちを尊重してくださっているから…。
だから…。

…ふと、紫織の美しい面差しが脳裏に浮かび、胸が苦しくなる。

「へえ…。さすが由緒正しいセレブは高潔だね」
…でもさ…と、梢が紗耶を振り向いた。

「好きになっちゃったら理性じゃどうしようもないってこと、あると思うけどね。
それが恋するってことじゃない?」

揶揄するわけでなく、皮肉でもなく、淡々とした問いかけは、紗耶の心に深く残ることになるのだった。






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