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異邦人の庭 〜secret garden〜
第7章 コーネリアの娘
「紗耶…。痛いんだけど…」
隼人の途方にくれたような声が聞こえる。
「…で、でも…怖いんですってば…!」
…紗耶は子どものように隼人の腕にしがみつき、必死で眼を閉じていた。
「大丈夫だよ。下にはネットがあるし。
眼を開けて見ろってば。景色が綺麗だぞ」
「…怖いから…無理です…」
ぶんぶん首を振る。
「だって…シートベルトないし…風が吹いたら…落ちちゃいそうです…」
踏みしめる床がないのも更に恐怖心を煽る。
…すると、温かく大きな手が紗耶の手をぎゅっと握りしめた。

「抑えといてやるから、心配すんな。
絶対落ちねえから」
無愛想な声だが、紗耶を落ち着かせる優しさに満ちていた。

「…は、はい…」
「紗耶。眼、開けて見ろ。
景色、綺麗だから」
促され、こわごわと瞼を開く。

「…わあ…」
眼の前には、鮮やかな新緑と、澄み切った青い空がのびのびと広がっていた。
「…綺麗…」
紗耶は眼を輝かせた。
森を渡る初夏の風は爽やかで、シプレのような芳香すら含んでいた。

「山の上はもっと綺麗だぞ。
今日は晴れているから富士山も見えるだろうな。
…そうだ。高尾山は色んな種類の菫の花も咲いてるぞ。
途中で見られるはずだよ」
体力作りを兼ねて一人でも時々登りに来るという隼人は高尾山に詳しかった。
「…菫?嬉しい…!」
思わず隼人の手を強く握りしめ、はっと我に帰る。
「…あ…す、すみません…」
…しがみついたりして、図々しかったな…と、反省し、手を離そうとするその手を
「降りるまでいいよ。まだ、怖いんだろ」
と、繋ぎ直された。
「…あ、ありがとうございます…」
ほっと胸を撫で下ろす。

爽やかな風が吹き渡り、紅潮した頰を冷ましてくれる。
隼人がぼそりと尋ねた。
「…お前、いい匂いするな…。
何て香水?」
「え?そうですか?
…エスティ・ローダーのホワイトリネンです。
以前は母が調合してくれたトワレか、ジバンシイのプチサンボンだったんですけど…お兄ちゃまがもう少し大人っぽい香水にしてみたら…て選んでくださったんです」
最近変えてみたばかりのフレグランスを褒められて、紗耶は少し嬉しくなる。

「…へえ…。お兄ちゃまがね…」
やや面白くなさそうに呟き、けれどすぐに

「…お前によく似合ってる」
と、短く答えた。

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