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異邦人の庭 〜secret garden〜
第7章 コーネリアの娘
山頂のビアマウントで大勢で食べたり飲んだり喋ったり…賑やかに過ごす時間は本当に楽しかった。
紗耶には生まれて初めての経験だった。

ペニーレーンに入会した一年生は結局、紗耶とあと一人…長野出身の男子学生だけだった。
石川と言うその青年は素朴で朴訥な性格で、最初は紗耶と眼が合うだけで恥ずかしそうに頰を赤らめていたが、最近は打ち解けて話してくれるようになった。
安曇野に実家があるという彼はやはり山歩きが得意で、今回の山登りは一番に山頂に到着していた。

「長野県民は小学校高学年になると皆、北アルプスの燕岳と言う1300メートル級の山を登るんです。
だから鍛えられているんですよ」
「…すごい…」
紗耶は眼を見張った。

「結局、このサークルってめっちゃ体育会だよね。
ロックなのに健全。へんなの」
梢があははと笑った。
「お前もそうだろ」
隼人が顎をしゃくって見せる。
「あたしはもともと山育ちだもん。
生まれた時から日本昔話の山姥が住んでいるような周りになんもない山の寺で育ってさ。
学校行くのも友だちんちに行くのも山を下って行かなきゃなんだよ。
そりゃ自然に健脚になるわさ」
「…あの…。アネゴ先輩は、将来はお寺を継がれるんですか?」
遠慮勝ちに聞いてみる。
「そ。あたし、一人娘だからね。
父親は、無理に継がなくてもいい。
お前の好きなように生きろって言ってくれたけど…あたしの村には寺がひとつしかなくてさ。
後継ぎがいなくなったら、村のひとたちが困っちゃうんだよね。
田舎だから寺って村人の心の拠り所みたいなとこがあるんだよね。
何かあるとすぐに寺に相談に来たり…それこそよろず相談所みたいな感じなんだよ。
でもさ、あたしはそういうの嫌いじゃないんだよね。
過疎化が進む村で、孤独なおじいちゃんおばあちゃんたちの話し相手や相談相手になってやりたいんだよ。
…で、できればそこで音楽を続けられたらサイコーかな」
梢は金髪の前髪を搔き上げながら、少し照れたように眼を細めた。

「アネゴならできるさ。
お前のパワーってハンパねえからな。
法事で津軽三味線弾くときは言ってくれ。
いつでも俺がコラボしてやるからさ」
隼人がにやりと笑う。

「檀家が減るからヤダ」
フンとそっぽを向きながら…けれど梢ははにかむように唇を尖らせた。

…それはとても初々しく、愛らしい表情だったのだ。





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