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異邦人の庭 〜secret garden〜
第2章 ブルームーンの秘密
テーブルに居並ぶ人々が一斉に紗耶に注目した。
…したかのように、紗耶には見えた。
血の気が一気に引き、貌が青ざめ、手が冷たくなる。
相変わらず紗耶は人前で話すことが苦手だ。
家族や親しい友人には、言葉少なくとも落ち着いて話せるというのに…。
…今日はテーブルにたくさんの人々が居ならび…中には苦手な華子や麗香がこちらを興味津々に眺めている。
何より…この一族の絶対的な権力者たる徳子が、紗耶には恐怖に近い存在であった。
…鋭い眼差し、辛辣な言葉は、例えそれがひとかどの大人に対してでも容赦なく発揮されるのだ。
徳子の、どこか童話の世界の魔女めいた容貌や装いも、紗耶には畏怖を感じるのだった。
徳子はひたりと紗耶に眼を据える。
「…貴女は中学に上がったのですね?
何に興味を持っていますか?」
「…あ…」
唇が震え、喉が詰まる。
…興味…
何だろう…。
習っているヴァイオリン…ピアノ…絵画…フランス語…。
どれも嫌いではないが好きでもない。
紫織に勧められるがまま、お稽古しているだけだ…。
…私の好きなこと…。
早く…早く答えなくては…大お祖母様をお待たせしてしまう…。
彷徨う眼差しの先に、パーゴラを覆う可愛らしい黄色の木香薔薇が風に揺れて映った。
…そうだ…。
紗耶はなけなしの勇気を振り絞り、口を開いた。
「…あの…私…蔓薔薇が…好きです…。
…特にあの…木香薔薇が…」
…けれどその声は、庭園に吹き渡る初夏の風に掻き消されるほどに弱々しかった。
徳子が細い柳眉を跳ね上げ、紗耶を見据えた。
「声が小さすぎますよ。
誰もが聞き取れるようなはっきりとした明瞭な声でお答えなさい。
聞き取れないような声で答えるのは、相手に対して失礼極まりないことです。
もう一度、お答えなさい」
テーブルの上が静まり返った。
華子がくすりと小さく嗤った。
紗耶は人前で徳子に叱責されたショックに、身体が小刻みに震え出した。
…どうしよう…どうしよう…。
もう一回…?
でも…また叱られたら?
頭の中が激しく混乱する。
泣くのを堪えるのが精一杯の紗耶に、紫織が代わって詫びようとしたその時…。
「…お祖母様。
紗耶さんは先ほど、お祖母様のお気に入りの木香薔薇の窮地を救ったのですよ」
明るく穏やかな…けれど凛と澄み切った声で、千晴は口を挟んだ。
…したかのように、紗耶には見えた。
血の気が一気に引き、貌が青ざめ、手が冷たくなる。
相変わらず紗耶は人前で話すことが苦手だ。
家族や親しい友人には、言葉少なくとも落ち着いて話せるというのに…。
…今日はテーブルにたくさんの人々が居ならび…中には苦手な華子や麗香がこちらを興味津々に眺めている。
何より…この一族の絶対的な権力者たる徳子が、紗耶には恐怖に近い存在であった。
…鋭い眼差し、辛辣な言葉は、例えそれがひとかどの大人に対してでも容赦なく発揮されるのだ。
徳子の、どこか童話の世界の魔女めいた容貌や装いも、紗耶には畏怖を感じるのだった。
徳子はひたりと紗耶に眼を据える。
「…貴女は中学に上がったのですね?
何に興味を持っていますか?」
「…あ…」
唇が震え、喉が詰まる。
…興味…
何だろう…。
習っているヴァイオリン…ピアノ…絵画…フランス語…。
どれも嫌いではないが好きでもない。
紫織に勧められるがまま、お稽古しているだけだ…。
…私の好きなこと…。
早く…早く答えなくては…大お祖母様をお待たせしてしまう…。
彷徨う眼差しの先に、パーゴラを覆う可愛らしい黄色の木香薔薇が風に揺れて映った。
…そうだ…。
紗耶はなけなしの勇気を振り絞り、口を開いた。
「…あの…私…蔓薔薇が…好きです…。
…特にあの…木香薔薇が…」
…けれどその声は、庭園に吹き渡る初夏の風に掻き消されるほどに弱々しかった。
徳子が細い柳眉を跳ね上げ、紗耶を見据えた。
「声が小さすぎますよ。
誰もが聞き取れるようなはっきりとした明瞭な声でお答えなさい。
聞き取れないような声で答えるのは、相手に対して失礼極まりないことです。
もう一度、お答えなさい」
テーブルの上が静まり返った。
華子がくすりと小さく嗤った。
紗耶は人前で徳子に叱責されたショックに、身体が小刻みに震え出した。
…どうしよう…どうしよう…。
もう一回…?
でも…また叱られたら?
頭の中が激しく混乱する。
泣くのを堪えるのが精一杯の紗耶に、紫織が代わって詫びようとしたその時…。
「…お祖母様。
紗耶さんは先ほど、お祖母様のお気に入りの木香薔薇の窮地を救ったのですよ」
明るく穏やかな…けれど凛と澄み切った声で、千晴は口を挟んだ。