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異邦人の庭 〜secret garden〜
第2章 ブルームーンの秘密
テーブルの人々が一斉に千晴に注目する。
…この若く美丈夫な…既にカリスマ性すら備えた当主はその一挙一動が皆の興味と関心を常に惹きつけるのだ。
千晴はその端正な彫像のような美貌に柔らかな笑みを浮かべて祖母を見た。

「私の木香薔薇?」
誰よりも愛する孫の発言に、徳子は少し意外そうに瞳を巡らす。

「ええ。お祖父様がお祖母様のために育てられたあの大切な木香薔薇です」
千晴の美しい手が優雅に、パーゴラを覆う黄色い木香薔薇を指し示した。

一同がそちらを振り返る。

…風に揺れる小花が可憐な可愛らしい木香薔薇…。

徳子がため息をつきながら苦笑いする。
「…亡くなった旦那様は、私に似合う薔薇だからとあの木香薔薇を自ら庭に植えたのですよ。
…あんな…初めてのワルツを申し込まれたら頰を染めて口も聞けなくなる娘のような薔薇を…。
あのひとの眼はどうかしていたわ」
「…お祖父様からご覧になったお祖母様は、誰よりも愛らしく可愛らしく映られていたのですよ」
慈しみ深い眼差しで、千晴が頷く。

「…その木香薔薇の蔓が、アーサーが暴れたせいで外れてしまっていたのです。
それをお茶会が始まる前に、紗耶さんは庭師の森野さんと一緒に直していらしたのですよ」

千晴の美しい眼差しが紗耶を見て、漣のように微笑んだ。
紗耶は息を呑んだ。

…まさか…千晴お兄ちゃまに見られていたなんて…。

先ほど紗耶が庭園を歩いていると、パーゴラから細い木香薔薇が一枝外れ、枯れそうになっていた。
…飼われているアフガンハウンドに踏みつけられたのだろう。
紗耶は近くにいた老庭師とともに木香薔薇を集め、麻紐で束ねたのだ。

「紗耶嬢ちゃまは庭仕事がお好きかね?
華子嬢ちゃまや他の嬢ちゃまは虫が嫌だの土で汚れるだの仰って、見向きもなさらねえのに」
老庭師は眼を細める。
紗耶は微笑んだ。
「大好き。特に蔓薔薇が好き。
木香薔薇は棘が少ない優しい薔薇だから大好き。
ぐんぐん伸びる元気な薔薇だから見ていて楽しいの」
この無骨な…けれど実直な庭師には饒舌に語ることができた。

「へえ。詳しいねえ。
この薔薇も嬢ちゃまにそんなに好かれて幸せだ」
普段気難しい老庭師は、まるで孫を見るように優しく笑ったのだ。

…そのやり取りを、千晴は見ていたのだろうか。

どきどきする胸の高鳴りを抑えるように、紗耶は両手を握りしめた。


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