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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「おだてても、何も出ませんよ。
ほら、早くミサに行って」
藤木を追い立てながら、ふと…
「あ、ちょっと待って。
白衣、くちゃくちゃじゃないですか。
皺、伸ばして!あと、髪も!
すっごいボサボサ…。
シスターカミラは身嗜みにうるさいんだから気をつけてくださいよね」
白衣の皺を伸ばしてやり、他もチェックする。
「あ、ありがと…」

背伸びをしながら、髪を撫でつけてやる。
…藤木先生…すごく背が高いんだわ…。
改めて、男の逞しい体躯に心の内で驚く。

「ドライヤーくらい掛けてこなきゃ。
先生、イケメンなのにもったいない」
「…へえ…イケメンかあ…。
そりゃ光栄だ」
くすくす笑う藤木を軽く睨む。
「イケメンだけど、全然ダメ。
服装構わないし、髪はボサボサだし、呑気すぎて先生の威厳ゼロだし…。
ダメイケメンだわ」
ぽんぽん言いながら、藤木の髪を整えてやる紫織の手と、藤木の手が触れ合った。

「…あ…」

…指の長い大きなひんやりとした手…。
触れ合った手が、火傷しそうに熱く火照る。
初めて触れた大人の男の手にどきりとして、紫織は慌てて引っ込める。

釣られたように藤木がぎこちなく手を引き、咳払いをする。
「…ありがと。もう大丈夫だよ」
「…そ…」
「じゃ、行ってくる。
それ、適当でいいから。早く保健室、行きなさい」
サンダルの音をペタペタさせながら、藤木が理科室を出て行く。

「…はい…」
俯いてビーカーを洗い出す紫織の背中に、藤木のやや苦しげな声が飛んだ。

「…君みたいな綺麗な女の子が…あんまり無防備に男に触るんじゃないよ。
…誤解される…」

はっと貌を上げ、振り返った時には、男の姿は影も形もなかった…。





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