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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…こんにちは…」
紫織は礼儀正しく挨拶をした。
「…あ、こんにちは…」
釣られたように藤木も頭を下げた。
そのまま行き過ぎようとして、紫織は思わず外に眼が釘付けになる。
「…あ…!すごい雨…」
バケツをひっくり返したような雨が、降り始めていたのだ。
「…今、急に降ってきた。
通り雨だと思うけれどね…」
並んで外を見上げる男は、低いけれどよく通る美しい声でひとりごとのように呟いた。
「…はあ…」
…この先生…いい声だな…。
ぼんやりと不意に降り始めた雨を眺めながら思う。
「傘、ないの?」
「…え?」
唐突に話しかけられ、思わず隣に佇む男を見上げる。
…やっぱり、背が高いひとなんだな…。
すらりとした長躯は、180センチはゆうに超えているだろう。
背が高いから、猫背気味なのかな…。
だから、せっかく背も高くてスタイルも良いのにどこか恍けているような印象を与えるのだ。
「傘がなくて困っているのかな…て」
「…ああ…」
漸く意図が分かった。
突然の雨に傘がなくて、紫織が往生していると思ったらしい。
「いいえ、あります」
鞄の中から折り畳み傘を出して見せる。
藤木は、安心したように笑った。
「そりゃ、良かった」
笑うと、ぱっとお日様が差し込んだように朗らかに…そして大層可愛らしく見えた。
「 気をつけて帰りなさい」
教師らしく声を掛けた藤木は、まだ昇降口に佇んだまま、土砂降りの雨を眺めていた。
「…あのう…」
気がつくと、遠慮勝ちに口を開いていた。
藤木が再び、紫織を見下ろす。
「…先生、傘は…?」
「ないよ。まさか、降ると思わなかったから…」
と、寝癖が付いた髪を困ったように掻き上げた。
…また寝癖付いてる。
赴任して来たときも、化学の授業のときも、廊下や礼拝堂で見かけるときも、いつも寝癖が付いた髪を困ったように掻き上げていた。
それを見るたびに可笑しかった。
今も可笑しくて、吹き出してしまいそうになる。
笑いを抑えるために…気づいたら、口を開いていた。
「…あの…傘、バス停まで入って行かれませんか?」
藤木の、よく見ると切れ長の彫りの深い瞳が驚いたように見開かれた。
「へ?」
「先生、車じゃないですよね?時々、バスでお見かけしますから…。
バス停、すぐそこですから、良かったら…」
紫織はてきぱきと折り畳み傘を開いた。
紫織は礼儀正しく挨拶をした。
「…あ、こんにちは…」
釣られたように藤木も頭を下げた。
そのまま行き過ぎようとして、紫織は思わず外に眼が釘付けになる。
「…あ…!すごい雨…」
バケツをひっくり返したような雨が、降り始めていたのだ。
「…今、急に降ってきた。
通り雨だと思うけれどね…」
並んで外を見上げる男は、低いけれどよく通る美しい声でひとりごとのように呟いた。
「…はあ…」
…この先生…いい声だな…。
ぼんやりと不意に降り始めた雨を眺めながら思う。
「傘、ないの?」
「…え?」
唐突に話しかけられ、思わず隣に佇む男を見上げる。
…やっぱり、背が高いひとなんだな…。
すらりとした長躯は、180センチはゆうに超えているだろう。
背が高いから、猫背気味なのかな…。
だから、せっかく背も高くてスタイルも良いのにどこか恍けているような印象を与えるのだ。
「傘がなくて困っているのかな…て」
「…ああ…」
漸く意図が分かった。
突然の雨に傘がなくて、紫織が往生していると思ったらしい。
「いいえ、あります」
鞄の中から折り畳み傘を出して見せる。
藤木は、安心したように笑った。
「そりゃ、良かった」
笑うと、ぱっとお日様が差し込んだように朗らかに…そして大層可愛らしく見えた。
「 気をつけて帰りなさい」
教師らしく声を掛けた藤木は、まだ昇降口に佇んだまま、土砂降りの雨を眺めていた。
「…あのう…」
気がつくと、遠慮勝ちに口を開いていた。
藤木が再び、紫織を見下ろす。
「…先生、傘は…?」
「ないよ。まさか、降ると思わなかったから…」
と、寝癖が付いた髪を困ったように掻き上げた。
…また寝癖付いてる。
赴任して来たときも、化学の授業のときも、廊下や礼拝堂で見かけるときも、いつも寝癖が付いた髪を困ったように掻き上げていた。
それを見るたびに可笑しかった。
今も可笑しくて、吹き出してしまいそうになる。
笑いを抑えるために…気づいたら、口を開いていた。
「…あの…傘、バス停まで入って行かれませんか?」
藤木の、よく見ると切れ長の彫りの深い瞳が驚いたように見開かれた。
「へ?」
「先生、車じゃないですよね?時々、バスでお見かけしますから…。
バス停、すぐそこですから、良かったら…」
紫織はてきぱきと折り畳み傘を開いた。