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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
…と、半ば強引に引き止めたものの…やはり二人で一つの傘は小さかった。
「…すみません…。やっぱり狭いですよね?」
紫織は藤木が濡れないように身を縮める。
「いや、僕は大丈夫。
それより君が濡れてしまいそうだね。
ごめんね」
傘の上から響く激しい雨音の合間に、耳触りの良い美声が聞こえる。
のんびりはしているが、少し申し訳なさげな口調だ。
紫織が傘を差すと届かないので、背が高い藤木が傘を差し掛けてくれているのだ。
…男の人と傘差すと、こんな風になるのか…。
今まで女の子の友人としか同じ傘に入ったことがない紫織は、感心する。
「バス停、すぐそこですから…。
先生、もっと自分の方に差してください」
藤木は完全に紫織に傘を差し掛けているので気が気ではない。
バス停は、校門の目の前だ。
…ただ、敷地内が広大なので、校門までかなりあるのだ。
「気にしないで。
…日本の春の雨はいいね。雨に濡れた樹々の葉や花の匂いがして…生命の匂いがする。
それから、情緒がある」
藤木の声が楽しげに少し弾んでいる。
「…はあ…」
…やっぱり化学の先生て、ちょっと変わっているんだな…。
「コロンビア大学ってニューヨークですよね?
アメリカの雨って違いますか?」
海外旅行は家族で行ったハワイとカナダと香港、それから修学旅行のオーストラリアくらいしかまだ経験がない。
紫織の父親は仕事柄、一年中海外を飛び回っているので
『休みくらいは飛行機に乗りたくないな』と国内旅行が多かった。
富裕な子女が通うこの学院では長期休みのたびに海外旅行をする友人ばかりだから、紫織は少ない方だ。
「そうだね。あっちは一年中からっとしているから、雨もあっさりした感じだ。傘を持ち歩くひとも少ない」
…だから傘を忘れちゃうんだな…。
と藤木は笑った。
釣られて、紫織もくすりと笑う。
そして、わざと少し偉そうに
「…傘を持ち歩く習慣はつけた方がいいですよ。
日本は六月から梅雨のシーズンですからね」
意見してみる。
藤木は眉を上げて、大人しく頷いた。
「…はい。そうします…」
神妙な子どものような口調が可笑しくて、紫織は思わず笑いだした。
「素直」
「…かなあ…」
頭上では、照れたような温かな空気が漂っていた。
「…すみません…。やっぱり狭いですよね?」
紫織は藤木が濡れないように身を縮める。
「いや、僕は大丈夫。
それより君が濡れてしまいそうだね。
ごめんね」
傘の上から響く激しい雨音の合間に、耳触りの良い美声が聞こえる。
のんびりはしているが、少し申し訳なさげな口調だ。
紫織が傘を差すと届かないので、背が高い藤木が傘を差し掛けてくれているのだ。
…男の人と傘差すと、こんな風になるのか…。
今まで女の子の友人としか同じ傘に入ったことがない紫織は、感心する。
「バス停、すぐそこですから…。
先生、もっと自分の方に差してください」
藤木は完全に紫織に傘を差し掛けているので気が気ではない。
バス停は、校門の目の前だ。
…ただ、敷地内が広大なので、校門までかなりあるのだ。
「気にしないで。
…日本の春の雨はいいね。雨に濡れた樹々の葉や花の匂いがして…生命の匂いがする。
それから、情緒がある」
藤木の声が楽しげに少し弾んでいる。
「…はあ…」
…やっぱり化学の先生て、ちょっと変わっているんだな…。
「コロンビア大学ってニューヨークですよね?
アメリカの雨って違いますか?」
海外旅行は家族で行ったハワイとカナダと香港、それから修学旅行のオーストラリアくらいしかまだ経験がない。
紫織の父親は仕事柄、一年中海外を飛び回っているので
『休みくらいは飛行機に乗りたくないな』と国内旅行が多かった。
富裕な子女が通うこの学院では長期休みのたびに海外旅行をする友人ばかりだから、紫織は少ない方だ。
「そうだね。あっちは一年中からっとしているから、雨もあっさりした感じだ。傘を持ち歩くひとも少ない」
…だから傘を忘れちゃうんだな…。
と藤木は笑った。
釣られて、紫織もくすりと笑う。
そして、わざと少し偉そうに
「…傘を持ち歩く習慣はつけた方がいいですよ。
日本は六月から梅雨のシーズンですからね」
意見してみる。
藤木は眉を上げて、大人しく頷いた。
「…はい。そうします…」
神妙な子どものような口調が可笑しくて、紫織は思わず笑いだした。
「素直」
「…かなあ…」
頭上では、照れたような温かな空気が漂っていた。